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WEBで数万ドル集めるアーティストたち

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昨日のつづき。

今までの Kickstarter 関連エントリ

前回は、Kickstarter のプロジェクトには、

★何か人々の役に立つようなものユニークなものを作るための資金集めであり、それを欲しい人たちが支援者になる(そしてうまく資金調達できた暁には出来たものをゲットできる)「プレ・オーダー・タイプ」

と、

★そうではなく、例えば自分の撮りたいムービーを撮影する資金を調達するタイプ、つまり人々の「支援したい」という心情をつく「利他主義タイプ」

にわかれること、
そして設定した目標金額を遙かに超える多額の資金調達をするのはプレ・オーダー・タイプが圧倒的に向いていることを Garrett 氏のエントリから引用しつつ書きました。

では、「利他主義タイプ」の人々――自分の音楽をやりたい、映像をとりたい、絵を描きたい等アーティスト系の人々――は、それほどの資金調達は望めないのでしょうか。
昨日のエントリには「利他主義タイプに分類される場合は、ちゃんと希望どおりの目標金額を設定すること」なぜなら、それでないと、もしうまくいって目標達成した場合でも、達成後”このプロジェクトは目標超えている”と判断されて、ほとんど伸びがなくなると書きましたが、そうでないケースももちろんあります。

このあたりはまだまだ研究たりませんが、とりあえず今知っている事例3つをご紹介します。

2,243名から6万ドル以上集めたヒップ・ホップ・デュオ

まずは、今年4月に資金調達したヒップホップ・デュオ、ブルー・スカラー(Blue Scholar)※1から。

“CINEMETROPOLIS”: BLUE SCHOLARS SIGNS TO THE PEOPLE

彼らは自分たちの新しいアルバムをインディペンデントでリリースする資金として $25,000 を目標額とし、結果 2,243名から $62,391 集めました。達成率は 250%。音楽っていうまあ、趣味嗜好の強いのものに 2 倍以上はかなりの達成率です。

彼らにはまず、非常に強いメッセージがあります。

元々自分たちでレーベルを立ち上げた経験もある彼らは、KS のプロジェクト・ページの中でレコード・レーベルというシステムへの違和感と作った音楽をストレートに聞きたい人へ届けることへの強い信念を、かなりしっかり書いています。おお、熱い!という感じ。
そもそもデュオ名は「ブルー・カラー」からきている名前で、作品自身も権威への反発や新しい世代に力を、という内容のもので、まあ、なんというか、ネットで資金調達をする納得感があるんです。つまりこのへんはたしかに「利他主義モデル」なんだけど、物語の強さがあるんですね。
うむ、KS (とか、こういう資金調達をすることへの)「納得感」というのは、重要なファクターかもしれない。

じゃ、支援者に対する「見返り」はなんだったか。で、どのくらい集まったのか。

  • $1:ありがとう!(10名)
  • $5:ブルー・スカラーのツイッターで名前を叫びます!(フォロワーは現在9,100名強)(13名)
  • $10:新作のデジタル音源をリリース前にあげる(1,015名)
  • $20:リリース前の新作デジタル音源+特製サングラス(206名)
  • $25:リリース前に新作デジタル音源+リリース日にCDを送ります(531名)
  • $30:新作のデジタル音源+限定版LP(176名)
  • $50:限定版ポスター+リリース前新作デジタル音源+リリース日CD送付(108名)
  • $70:限定版LP+限定版ポスター+新作デジタル音源+CD送付(39名)
  • $100:「ブルー・スカラー・ショップ」にて、新作・過去含めスペシャル・グッズが購入可能+リリース前の新作デジタル音源(19名)
  • $100:シアトルで開催するシークレット・パーティ2名御招待+CD+サイン入り限定版ポスター(30名)
  • $150:シークレットパーティのVIPチケット(ブルー・スカラーと直接会えて話せるプレ・ショー)+限定版デラックス・パックCD+サイン入り限定版ポスター(63名)
  • $250:ライナー・ノーツのサンキュー・ページに名前を掲載した限定版デラックス・パックCD(14名)
  • $350:ライナー・ノーツ名前掲載限定版デラックス・パックCD+シークレット・パーティVIPチケット2名分+サイン入り限定版ポスター(4名)

上記には大きく分けて2つの特徴が。

ひとつは、リリース前の新作のデジタル音源というプレ・オーダー・モデルをほぼあまねく取り入れていること。
$5 でツイッターで名前読んでもらうぐらいなら、$10でリリース前に音源が欲しいわけです(笑)。それは、$1、$5への支援があわせて23名なの対して、$10 で突然1,015名になっているのでもわかります。
これは、価格的にも「買おうかなどうしようかな」なライトなファン層をがっちり取りこむことを目的としていると思います。

もうひとつは、ディープなファン向けのシークレット・パーティへの招待という「特権」
その中でも「直接会えて話せる」VIPチケットの”引き”が強いのは、それより安い支援で獲得できる単なるシークレット・パーティ御招待への支援よりも人数が多いので証明されてますね。

つまり、ブルー・スカラーというデュオは、(ここ重要ですが)ツイッターで9,000前後のフォロワーという、低くもないけど高くもない程度の知名度、人気度なのだけれど、おそらく彼らの音楽をそれなりに知っている人たち~ファンに向けて、

  • 彼らの物語に巻き込みつつも(利他主義
  • リリース前配信という、買おうかなと思っていた人に対してけっこう引きのある「見返り」を手の届きやすい価格で提示し(プレ・オーダー
  • さらに、ファン層に向けては「特別に会える」という見返りをわりと高めでつけた(特権

というわけです。
プレ・オーダーや特権を見返りとしているので、目標達成しても支援額はあがっていくんですね。

しかも!
彼らはちゃんと、FAQの最初に「目標額に達していても支援できますか?」→「もちろんですとも!!」というのを明示しています(笑)。
いや、これ賢いですよ。何かのエントリに書いていたけど、実は KS 自体のシステムをよくわかっていなくて(目標に達しなかったらゼロとか)支援しそこなう人も実はけっこういるらしいです。おそらく性質上、ITやこの種のサービスに詳しい人だけが支援者対象というわけではない(たとえば両親や親類とか!)からなんだと思いますが。
だから、こういうのすごい重要なんだと思います。彼らのこの貪欲さが私は好きです(笑)。

どちらにせよ、よく練られているプロジェクト設定だと思います。

11.6万ドル以上集めた起業家による写真プロジェクト

ちなみに同じような手法で、今年の6月に $116,270 を集めた写真のプロジェクトもあります。

Naked Sea ? Spencer Tunick Dead Sea Installation

当初の目標額は $60,000 だったので達成率 194% とほぼ倍。アート関係で10万ドル超える例は本当にめったに見かけないので、大成功ですね。また、その月にファイン・アートで成功したプロジェクトのうち70%強が目標達成率120%以内なので※2、達成率もかなりよい。

これも同様にまず、納得感があり、支援しやすい物語があります。

このプロジェクトは、スペンサー・チュニック(Spencer Tunick)というパブリックの場で大人数がヌードで体を寄せ合っている写真で有名なフォトグラファーが、新作として、死海を舞台にして大人数ヌード写真を撮るための資金調達です。でも、プロジェクトを立ち上げている人は、スペンサー氏自身ではなく、イスラエル出身の起業家かつアート・ラバーのアリ・フラクター(Ari Fruchter)氏なんです。彼はスペンサー氏と長い友人だそうで。

なぜ彼は死海でのプロジェクトを立ち上げたのか?

それは、彼の故郷・イスラエルに面している死海が過去の灌漑用水の利用により消滅の危機にあるから。
私も詳しくないのですが、死海の水面低下はこの地域の大変な問題となっていて、アリ氏は水の重要性と死海の危機を世界に注目させるため、スペンサー氏に作品を撮ってもらうことを企画したそうです。(ちなみにスペンサー氏は、今までも彼の撮る写真によって地球温暖化やゲイの権利等の社会問題を浮き上がらせているので、非常にぴったりなわけです)この、スペンサー氏ではなく、イスラエル出身のアリ氏がプロジェクト立ち上げをしているところが、このプロジェクト成功のまず肝だったのではと考えています。※3

このプロジェクトへの「見返り」もみてみましょう。

  • $5 プロジェクトのMLに参加  →49名
  • $10 上記+スペンサー氏自身の御礼メール+死海でのオフショット  →182名
  • $25 上記+サイン付本プロジェクトフライヤー  →95名
  • $50 上記+スペンサー氏最近の作品のサイン付カード(リミテッド・エディション)  →81名
  • $100 上記+死海で撮影したサイン付きアートワーク(リミテッド・エディション/5×6inch)  →215名
  • $500 上記+スペンサー氏のサイン付ドキュメンタリービデオ  →2名
  • $750 上記+死海で撮影したサイン付きアートワーク(リミテッド・エディション/8×10inch)※サイズとしては $1,500 相当。最近では同サイズで $8,000 のものも。  →29名
  • $1,000 上記+本プロジェクトウェブ・サイトにスポンサー・クレジット  →17名
  • $5,000 上記+本プロジェクトサイン付プリント(リミテッド・エディション/30×37インチ)+イスラエルとNYで開催されるプライベート・パーティのゲスト  →9名

みてのとおり、こちらもプロジェクトの骨子は「利他主義」ですが、見返りは完全にプレ・オーダー・モデル。プラス、ブルー・スカラー同様プライベート・パーティへの招待という強い「特権」も入っている。

このプロジェクトの強さは、高価格帯への支援が多いこと。
たとえば、$5,000 の支援に9人が手を挙げているけれど、この月の $5,000 の支援者は10名しかいません笑。(つまり、10名中9名がこのプロジェクトということ)ま、これはほとんどコレクターにむけての販売ですよね。スペンサー自身に知名度と権威があるので、これはブルー・スカラーの例に比べるとアートだけどだいぶプレ・オーダー・モデルに近いのかも。

とはいえ、有名なアーティストがただ自分の作品を売るだけでは、そもそも KS 側で通るかっていうのもあるので、ふたつのモデルを組み合わせて大成功した興味深い事例だと思います。

——————-
3つ紹介しますと言いましたが、時間がなくなったので2つにします(笑)。

もうひとつ紹介しようと思っていたのは、なんと目標達成率573%で$25,000以上ゲットした若い女性アーティストの事例です。ただし、これは上の2つのように綺麗なまとめ方ができまへん(笑)。どおしよっかなあ。

せっかくなので、ちょっとアート・マネジメント的な、、話もふまえながら書いてみようか。
しかし成功事例だけでもなんなので、もうちょっと違う側面からもかきたいですね。
というか、KS 以外のこともそろそろ書きたい。

ま、何書くかわからないですが、明日も更新しますよ! たぶん!

※1:前回紹介した Garret 氏のブログにも成功例として取り上げられています。

※2:成功したプロジェクト数 100 個の内71プロジェクトが120%以内

※3:人々が納得、共感しやすいものがお金が集めやすいという側面は、もちろん問題ははらんでいると思います。だから、専門家による助成等のシステムは同時に絶対必要だと。これに関しては、別立てでエントリするかも。

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