- Aug 15, 2011
- #BLOG, #DIGITAL STRATEGY
- デジタル戦略事例紹介, メトロポリタン美術館
さて週が開けましたね。
今週は、ソーシャル・メディアとアート関連で気になることとかをエントリしていこうかなあと思います。
つっても、この話題に関しては切り口、ネタが満載すぎるので、何から話題にするか悩んだのですが、まずは固いところではなく、私が「いいなあ」と思ったウェブとソーシャル・メディアを使ったある美術館の企画を紹介しようかと思います。
ミュージアムや劇場、オーケストラ団体等等がソーシャル・メディアを活用している事例って、欧米では山ほどあるんです。バブルかってくらい皆競いあってやっている。でも、失敗例もいろいろあるし、批判もある。(そのへんも紹介したいところです)個人的には、やらないよりやって失敗した方がよいと思うけれども、でも、「とりあえずツール使ってみました」的なものが存在するのもたしかだのうと思う。特に、アート系でよく批判されがちなのは、「作品より対話が重視なのか」とか「ソーシャル・メディアに夢中になって、作品の方に集中しない」とか、そういう「コミュニケーション重視しすぎ」なところで、実際それは私も賛同してしまうところも結構あったり。
じゃ、私自身はまずどういうのが「いいねー」と思うのか、を最初にかいておこうかと思います。
「何故、MET がデートにぴったりの場所なのか」
いいねーと思うのはいろいろありますが、今回紹介したいのは、ニューヨークにあるメトロポリタン美術館(MET)が今年1年かけて WEB で実施している「Connections」というシリーズ。
これは、毎週水曜に MET のキュレーターやスタッフが、自分でテーマを決めて、それにそったMET にある好きな作品を紹介していくという企画なんです。
わかりやすいテーマをひとつ挙げると、ヴァレンタイン・デー前に教育課アシスタント Nadja Hansen さんが紹介した「Date Night」。ヴァレンタインだけに「なぜ、MET がデートに適した場所なのか!」という視点で、鈴木春信からフェルメール、オキーフまで、恋人たちにまつわる作品をピックアップして紹介しています。
まー、それだけで導入としてはキャッチーですよねー。はい。
でもって、もちろん Facebook やツイッターには共有できるんですが、MET の FB(「いいね!」54万人以上!) やツイッター(フォロワー34万人以上!)公式でも紹介しつつ、FB では関連して「MET で一番ロマンティックなアートは何?」という質問も投げかけて、コメントもらったりしている。人気なのは、Date Night でもピックアップされていたコットの The Storm だな、ふむふむ。等。
そして、気になった作品はもちろん、詳細な情報/解説ページへ飛びます。ちなみに The Storm だとここにリンクがはられていますが、ここのサイト「HEILBRUNN TIMELINE OF ART HISTORY」といって、HEILBRUNN 財団の支援によって出来た、MET の作品をタイムライン上に載せたデータベース。美術史に関心のある方は一度みていただきたいんですが、すげーです。まあ、研究用ですが、その量と作りと見せ方に圧倒される感じ。
まあ、そもそも論でいくと、こういうきっちりしたデータベースがあるから、こういう企画も厚さというか、しっかり感があるわけですが。。
もとい、さらに、その作品が今みられるのかどうか、みられるとしたら(あの広大な MET の中の)どこにあるのかも地図で示してくれています。まあ、デートに適してるんだから!と言ってるぐらいなので、実際恋人同士で行けないとね。
まとめると、
<導入>
- シンプルで綺麗なWEBサイト
- 誰でも関心を引きやすいテーマ
- 個人の視点によって別々の作品が関係づけられていくという知的好奇心
<コミュニケーション>
- ソーシャル・メディアへの連携
- 誰でも一言書き込みたくなる話題の提供
<深く知る>
- 詳細データベースへのリンク
<美術館へのアクション>
- 実際どこで観られるかの案内
という感じで、別に「おわっすげええなにこれ!」というような企画というよりかは、美術館らしいかなり王道な企画ですね。
では、これが何故いいな、と思ったのか。
ヘミングウェイの孫しか伝えられないこと
これを私がいいなと思った理由は、
WEB とソーシャル・メディアの強みとか、(ミュージアム業界的な)最近の「流行り」を取り入れつつ、無理なくいろんな人々の関心をひきつけているし、シンプルにアートの良さを伝えられているということ。
ここ近年ずっと、いやいや美術館は地域コミュニティのハブであれ、対話が始まる場所であれ……と、いろんな意見ありますが、やっぱり、アートへの関心を高めて、良さ(とまで言わなくても「なんか気になる」)を伝えてなんぼでしょ、というのが私のスタンスで、ソーシャル・メディアも WEB もその役割を今まで以上、今までとは違う方法で果たせるから、利用するべきなんだよね、と思っています。だから、逆にそこからすごく離れてくるような使い方だと、瞬間的にネタ的に(笑)面白いものであっても、どうかなーと首をひねってしまったり。
それにひきかえ、この企画は、
- 美術館の「強いところ、良さ」という資産
- 彼らが果たすべき「ミッション」という目的
- 「うまく人々の関心をひきつける」という仕掛け
- 「人々を中に巻き込む」というコミュニケーションの取り方
これらのバランスがすごくとれているんですね。だから無理がないし、「強い」のです。だって、本物の作品の画像、長年の研究の蓄積である情報、アートをよく知っているスタッフたちの言葉、全部ほかで真似できない。
特に、この企画の強みでもあり、新しさでもあるのは、「MET スタッフの個人的なセレクションと生の言葉」というところだと思います。今年の初めに New York Times でミュージアムとソーシャル・メディアが取り上げられた時も※1この企画は紹介されたんですが、MET のデジタル・メディア関連チーフ・オフィサーの方曰く「パーソナルな想い」と「専門家としての意見」、その両方をうまくバランスとっているとのこと。
最近、芸術分野でも専門家とか批評家の批評、感想、意見 VS 一般の人の批評、感想、意見 みたいな構図がよく取り上げられて(そのへんも面白いんですよね)、まあだいたいは、後者のパワーが強くなってる、業界の慣習にどうしてもとらわれてしまう前者はピンチ、みたいな話になるんですが、でもやっぱり、きちんと作品や作家の歴史や文脈、社会的背景などの積み重ね+(それを専門としてしまうほどの!)「愛」がある批評家の方の文章とかは、やっぱりそうそう勝てないな、、と思うことがあります。実は個人的にも最近あったんですけど。
で、ソーシャル・メディアが激しく伝搬していくのって、好奇心や関心を湧きたてられるものですが、そういう意味では、アート系で一番ソーシャルに乗せやすい面白さがあるのって、アート大好き!かつ、専門的知識も備えているスタッフの方々のカジュアルな話なのかもしれない。そこを、この企画は意識的にか無意識的にか、よくわかっていると思います。上に挙げた以外にも、ヘミングウェイの孫(MET のギリシャ・ローマ部門のキュレーターだそうな)が語る祖父の好きだったアート、とか語ってるんですが、もうそれって、ほとんど世界中に彼しかできないチョイス、語れない話ですよね。聞いてみたくないっすか?
最大の宣伝文句は、それが大好きで、愛がある人が語る生の言葉。
そして、その言葉は、ソーシャル・メディアを使うことで、それがない時代とは比較ならないほど遠くまで伝わっていく。
そういうシンプルなところをちゃんとおさえて、アートへの関心を惹きつけようとしている企画だから、私はこのシリーズが好きなのかなって思います。
ちなみに、基本は音声ですがちゃんと英語字幕もでるので、リスニングついていけなくてもだいたいわかりますよ。いくつか聞いて見つつ、FBの MET ファンページとかみてみるとなかなか面白いかもです。
というわけで、これからアート(組織)とソーシャル・メディアに関するエントリをいくつかするかと思いますが、私がITやソーシャル・メディアに可能性をみて、実現したいのはこのあたりなんだよね、ってところを宣言しておくためのエントリでした。
明日は、今流行りの?「デジタル・オーディエンス」について、報告書の紹介でもしながらかくかしら。それとも、オフ・シーズンのコミュケーション・ツールとしてウェブをいろいろ活用している例でも紹介するか。。
なんか、書きます。
※1:Museums Special Section The Spirit of Sharing(03.17.2011)