アート/エンタメにおける「デジタル・オーディエンス」とは

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アートとソーシャル・メディア、前回はゆるく実例を書きましたが、本日は、「デジタル・オーディエンス」とはなんぞや、という話。

デジタル・オーディエンス」って言葉聞いたことありますか?
アートやエンタメ分野でいうと、昨年11月イギリスのアーツ・カウンシルが Digital audiences – engagement with arts and culture online という報告書を出しており、今年の2月にブリティッシュ・カウンシル主催で開催された「デジタル・クリエイティブ・カンファレンス ―テクノロジーとアート、その未来を考える―(以下、DCC)」でも言及されていたので、もしかしたらイギリスの文化関係機関で言い始めたのかも、と思います。でも、もちろん言葉自体普通名詞として昔からあって、特に広告分野で21世紀すぎた頃からたまに使われているようです※1

と思ったら、先日 Mashable に「ミュージアムがデジタル・オーディエンスにリーチする5つの方法(5 Ways Museums Are Reaching Digital Audiences」という記事も載っていたりしたので、まあ、アートとソーシャル・メディアの話をする前提としても、ここいらでアート/エンタテイメント分野における「デジタル・オーディエンス」について簡単にまとめておこうと思います。

デジタル・オーディエンスとは

彼女もデジタル・オーディエンス!

彼女たちもデジタル・オーディエンス! at TATE MODERN

まず、デジタル・オーディエンスってなんやねん、というところですが、これはネットの普及により多くの人が日常的にオンラインで活動するようになったことにより、アート/エンタメ関連機関とオーディエンスの関係が変化したことにより生まれた概念とのこと。

いっとう最初は各機関が対象とするオーディエンスとはその「地域」にいる人々だったけれど、そのうちどんどん範囲が広がり「インターナショナル」にまで範囲を広げていったのが20世紀。しかし21世紀に入り、特に近年「地域/インターナショナル」の枠組みとは別の、(物理的にどこに住んでるか、いるかは関係なく)オンライン上にいる人々がアート&エンタメ機関が対応していかなければならない新しい対象になった、それが「デジタル・オーディエンス」です。

これはもちろん、アート関連に限らないありとあらゆる分野で起こっていることで、大きめの事例でいうと、Rachel Sterne 氏(美人!)が初のチーフ・デジタル・オフィサーに就任したことで話題になった※2ニューヨークのデジタル戦略の報告書でも、「早晩、nyc.gov にアクセスするユニーク・ユーザー(33万人/年)はセントラル・パークに訪れる人(35万人/年)より多くなるので、デジタル・パブリック・スペースを作る」なんて言ってます。まあ、そういうことです。

デジタル・オーディエンスの特徴

では、「デジタル・オーディエンス」には何かそれまではとは違うのか、あるいは彼ら向けに施策を講じていかなければならないような特徴があるのか。

イギリスでの調査報告になりますが、今のところアート&エンタメ分野におけるデジタル・オーディエンスに特化した報告書というのは、たぶん先程紹介したDigital audiences – engagement with arts and culture online“しかないので、こちらから8点ほど引用します。(かなり詳しいデータもあるので、ご関心有る方は元の報告書にアクセスしてみてください)

※調査対象はイギリスでネット利用者2,000名。

(1)ネットを通じてアート/エンタメに接している割合:53%

  • もっとも利用されているのは「情報の発見」ツールとして(イベントやアーティスト情報を見つけること、チケットなど)
  • もうひとつ頻度の高い利用方法はパフォーマンスなどをきいたりみたりすること
  • 6%は、何か創ることにインターネットを使っている。

(2)ネットを通じての関与の仕方:

  • デジタル環境の中でのアート・文化セクターとの関係の持ち方は5つに分類される。

アクセスする/学ぶ/経験する/共有する/創造する

アクセスする/学ぶ/経験する/共有する/創造する

(3)アート/エンタメ体験の中でのネットの位置づけ:

ライブでの経験の「代理品」ではなく「補完」として考えている。

  • ライブ経験にいたるまでのフィルタリングとしての動画、ウェブ閲覧など。多くの人が可能性を感じている部分でもある。
  • ほとんどの人は、リアルでの経験の方がオンラインよりまさると思っている。

(4)デジタル・オーディエンスとの親和性が高い分野:

現在のところ、もっとも高いのは音楽。しかし、他のジャンルにも大きな可能性がある。

たとえば

  • 動画:81%が音楽のクリップを閲覧。次がダンス(30%)、演劇(27%)、美術(19%)。/美術ファン約半数と、ダンスファンの41%に対して、動画は効果がある。
  • ヴァーチャル・ツアー:ミュージアムファンの56%、アーカイブに関心をもつ47%がオンラインでのヴァーチャル・ツアーに関心あり/ダンスファンの44%はバックステージのバーチャル・ツアーに関心あり

(5)ソーシャル・メディア活用の目的:

特に Facebook は情報共有とともに「発見」する主要ツールとなっている。「検索」機能はその次。

(6)ウェブ上でのブランド構築の重要性:

オンライン上にあまりに多くの情報があるため、発見、フィルタリングをする手がかりが重要。
そういった時に、ウェブ上にブランドがあるものは強い。
特に、オンラインのセキュリティに不安をもっている人たちに対しては有効である。

(7)ライブ参加率との関連:

オンラインで積極的に活動している人は、同様にリアルでのイベントでもアート/エンタメに参加している。

  • オンラインのみでアート/エンタメに触れているという人は1%
  • アート/エンタメ分野でのデジタル・メディアに可能性を感じている人は、すでにアートやエンターテイメントを楽しんでいる傾向にある。

(8)アート/エンタメとデジタル・メディアの関与度によるセグメント:

アート/エンタメとデジタル・メディアへの関与度をベースに人々をセグメントすると、全5つのセグメント中下記3セグメントは、特にアート/エンタメ系組織に関心があり、対応しなければならないところである。

  • Confident Core(29%):インターネットのメインストリーム・ユーザーであり、ネットでチケットを購入したり、ソーシャル・メディアを使うことになれている。アート/エンタメには積極的な関心があり、定期的に観にいっている。このセグメントにとってネットとは、リアルのイベントをみつけ、フィルタリングし、計画し、チケットを購入する最初のチャネルである。
  • Late Adopters(21%):相対的にオンラインへの積極性はそれほどない。メールと、グーグルと少しの信頼できるサイトを使う。オンラインでチケットは購入するが、ソーシャル・メディアやモバイルはあまり活用しない。このセグメントは、アート/エンタメに関心をみせるが、実際は時々参加する程度である。
  • Leading edge(11%):最新テクノロジーが大好きで、アート/エンタメに情熱があり、よく参加している。そこで得た経験をまとめたり、共有したりする熱心なソーシャル・メディア・ユーザーである。

いろいろ書きましたが、まあ「デジタル・オーディエンス」の中でもその活動頻度や利用方法に差はあれども、

  • リアルでの経験を損なうものではない。むしろ、拡張しているし、オンラインでの活動が活発な人ほどリアルも活発ですらある。
  • 情報を受け取るだけなく、共有したり創造したりしている

つまり、デジタル・オーディエンスとは、提供された情報に基づく鑑賞、参加以外にもツイートしたりレビューしたり、自分で編集しなおしたり、つくったり、アート/エンタメの楽しみ方が多様になってきている人たち、といえるみたい。

Bloomberg Connects at TATE MODERN

Bloomberg Connects at TATE MODERN

ちょっと視点は違いますが、Kickstarter のようなもので支援したり、されたり、っていうのも「デジタル・オーディエンス」の流れなのだと思います。アートやエンタテイメントとの関わり方が圧倒的に変わってきている。

この報告書では、最後に

  • ネットはアート/エンタメ系コンテンツの消費、共有、創造のやり方を変えた
  • またアート/エンタメ系組織にとってネットを活用するということはマーケティング・チャネルを増やすにとどまらず、経験を拡張させてあげるものである

と結論づけています※3

何故、デジタル・オーディエンスへの対応が必要か

よし、なんとなく何をデジタル・オーディエンスと呼ぶのか、そして彼らの特徴はわかったような気がする。では何故、「デジタル・オーディエンス」をここまで(どこまで?)気にせねばならんのでしょうか。

それは、誰かに言われたことをそのまま聞くというよりかは、それぞれがそれぞれで考えるべきなのでしょうが(「そこまで気にしないでいいじゃん」という考えがあってもよいと思います)、一応ここでは DCC の基調講演で BBC ジャーナリスト、ビル・トンプソン氏の発言を紹介しておきます。

ビル氏曰く、

デジタルによる抜本的変化に対して、これまではをかろうじて外(これまでの考え、概念、枠組み)から解釈してなんとかなる時代だったが、その時代も終わり、これからは今までの枠組みを壊し、新しい枠組み作らなければれいけない※4

とのこと。

さらに、

人々はもっとアートやエンタテイメントに関わりたいと思っていて、実際ネットとテクノロジーの発展でそれがさまざまな形で可能にできるようになっている。
でも、今のところ関連の組織は「体験」を提供しているだけで、真のインタラクティブは提供することはとても難しいことだ

としながら、

世界の変化は始まったばかりだから、アートとテクノロジーは切り離せないものと認識するしかない

と結論づけていました。

アムステルダムの EYE Film Institute Netherlands にて。可愛すぎる親子!

アムステルダムの EYE Film Institute Netherlands にて。可愛すぎる親子!

彼の主張に対して、どう感じるかは自由ですが、個人的感想として、おそらく少なくとも私が院自体に研究していたミュージアムの世界では、その意識が非常に濃厚になってきていると感じています(なぜ濃厚になってきているかは一部ミュージアム業界ならではの他の要因もあるのですが、今回は割愛)。だから皆「デジタル・オーディエンス」の実態を知り、対応をしていくことに関心が集まり、テストケースやトライアルの百花繚乱状態(w)になっているのだと。
まあ、もちろんこれは大上段な、というかかっこいい理由(笑)で、もうちょっとカジュアルというか世知辛い背景の方が強いとは思いますがね笑

というわけで、今回は駆け足でデジタル・オーディエンスという概念の紹介をしてみました。

引き続き明日も「デジタル・オーディエンス」を切り口に、もうちょっと実感ベースの話と、じゃあ彼らとどう関係を創っていくのか?という実例紹介をしよっかなーと思います。

これもまあ、書き出したら尽きない話題だにゃー。当面このブログの二大ネタは、アート×ソーシャル・メディアと、クラウド・ファンディングとコミュニティ(ビジネス)、になりそうです。

※1:他、2003年のこんなんも出てきました。Redefining Digital Audience :: Models and Actions. (2003). Paul Nemirovsky. MIT Media Lab

※2:参考記事
ニューヨーク市はソーシャルメディア都市を目指す―Facebook等有力IT企業多数と提携

※3:同時に、現状利益を出さない分野でもあるのでコストの問題があり、デジタル・メディア戦略を練る際にはどの部分に投資するかはしっかり見極めなければいけないとも述べている。

※4:ちなみに実際にはビル氏はこのことをジャン・ピアジェの発達心理学の概念を引用して「同化(assimilation)」から「調節(accommodation)」へ、と話しておりました、、、と思います。このあたりは全然わからないので間違って使っても何なので本文内では避けました^^;

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