- Aug 18, 2011
- #BLOG, #DIGITAL STRATEGY
- デジタル戦略事例紹介, バンクーバー・オペラ
どもです。
今週は、デジタル・オーディエンスをキーワードにアート/エンタメ組織とソーシャル・メディアの関り方について、あれこれ書いてます。昨日のエントリで、『「つながる」だけでなく「いかにつながるか」はとても重要になる』と書きましたが、「いかにつながるか」の事例をひとつ紹介したいと思います。
と、その前にひとつ。
資金調達の専門家、ブライアン・ミラー氏はこんなことを言っています。
「人々が関心あることを邪魔するな。人々が関心あること自体になれ」
これって、何年も何十年も前からプロモーションや広告の分野では口をすっぱく言われていることですが、ソーシャル・メディアの世界ではさらに重要な点だと思います。
いまや組織にとって、商品発売やイベント開始~開催中の「オンシーズン」の時より、そうでない「オフシーズン」の時期にいかにつながるかの方が大事になってきていのではないでしょうか。前回のエントリでも触れたように、ソーシャル・メディアが出てくる以前から購入者やお得意様のケアは重要だったと思いますが、ウェブによって年がら年中多くの人々と接することができるようになって(こちらが接する気がなくても勝手にみられたりして)「オフシーズン」の振舞い方に変化が求められるようになってきた。どうしても宣伝色が強くなりお金が動くオンシーズンに向け、オフシーズン=何もない時にいかに関係を築くか。
逆に言えば、オンのときに慌てて関係を結んでも意味ないわけです。団体、組織の「目指す世界」「かなえる世界」を介した関係をじっくり築いていくのだと考えたときに、ウェブを通じて何を発信していく内容はおのずと変わってくる。
今回紹介するカナダのバンクーバー・オペラは、そのような視点からソーシャル・メディアを活用している団体のひとつです。
(1)他カルチャーの視点からみたオペラ
バンクーバー・オペラは1958年に設立された、西カナダで最大のオペラハウスです。昨年、Technology in the Arts(現在、Art Management & Technology Laboratory) にソーシャル・メディア・マネージャーを務める Ling Chan 氏のインタビューが出ていて、大変興味深かった。
まず、彼女曰くバンクーバー・オペラではソーシャル・メディアを「次世代のオペラ・ラヴァー」、つまり主に若い世代とコミュニケーションするため、と明確に位置付けして利用しているとのこと。では実際どのようなことをやっているのか。
まず手がけているのが、他カルチャーの視点からみたオペラのネット上での積極的な紹介。
まー、オペラっつったら、日本に限らず全世界共通で特に若者にとっては敷居が高いものなんだと思います。観客の高齢化が進んでいるとの話もあります。というわけで、バンクーバー・オペラではブログや Facebook でとっつきやすいカルチャーの中にみるオペラの紹介をしています。
映画『インセプション』みましたかー? なんて前ふりから、インセプションに出てた俳優の別の映画で使われていたオペラの曲の話から懐かしいファルコの「ロック・ミー・アマデウス」(懐かしい、なんて世代がばれますね。。一応、小さい頃、ですよ汗)まで、導入の敷居を低くしているのがポイント。
※懐かしすぎてはってもうたw
あとは、「ヒップホップ・オペラ」「スタートレック・オペラ」「レゴ・カルメン」などなど、正式でない?オペラの動画ばっかり集めたページも Facebook にあったりする。(※2015 年現在クローズ)
これもポップ・カルチャー×オペラというところでしょう。
あと、ちょっと視点違うけど、個人的にお気に入りなのは、写真共有サイト Flickr にて、実際に劇場にオサレしてやってくる人たちの写真をアップしているコレ。
やー、劇場行く最大の楽しみって実はこういうハレの日の気分だったりするんですよねー!!!(力説)
だからファッション、すごく大事。だし、意外とみんな何着てらっさるのかしら、とか気になる。
なにより、こういうの見てると行きたいなーってわくわくしますよね。
私のようなミーハー女子的向けにはすばらしい PR だと思います。
Ling 氏曰く、これらはやはり、「オペラのオフ・シーズンに人々の関心を惹きつけておく」のも意図としてあるそうです。
(2)舞台裏を見せる
オフライン、オンライン通じて舞台裏を見せることは昔からわりとある手法です。
例に漏れず、バンクーバー・オペラでもブロガーを招待した”Blogger Night at the Opera”を実施しています。が、面白いのはオペラ・ファンの人気ブロガーを招待しているのではなく、その地域の人気ブロガーを招待していること!
つまり、オペラに詳しくないどころか、オペラを一度もみたことない人もいるわけです。彼らを招待し、幕間に集まる様子、舞台裏などをライブ配信しています。Ling 氏のインタビューでは「このおかげで、彼らのブログの読者で一度もオペラを見にきたことがなかった人たちに関心をもってもらい、一部きてもらうことができた」とのこと。具体的な数字などはわかりませんが、今までオペラなど観に来なかった人たちに人気ブロガーのエントリを通じて、存在を知らせたことはたしかでしょう。
最近はブロガーをプレビューに招待、とかってよくありますが、その分野での人気ブロガーであるケースがほとんどで、率直に言って見れば彼らは別にプレビューに招待されなくても来ていた人たち、かつ彼らの読者も紹介されなくても知る可能性が高い人たちなんだと思います。そういう意味では、既存ファンのコミュニティにアプローチする、そのコミュニティに影響力がある人たちへのケア、という意味ではこういったブロガー招待は大いに価値があるのだと思うけど、新規開拓とはなかなかならない。
しかも、勝手がわからない人たちにいろいろ見せてしまうと、空気読まずにwいろいろ書いてしまうことやとんちんかんなことを書く場合だってあるわけです。だからこそ面白いっていうのもあるかもしれませんが(笑)
なのでこの例は、新規開拓を目的として行った大胆なアプローチだと思います。たとえばオペラ・ゴアなブロガーとかから反発もありそうだもんねえ。しかし、そのあたりに彼らの意志と明確な方針を感じます。
また、バンクーバー・オペラは公式で4つもツイッターのアカウントを運用しています。
- @VancouverOpera フォロワー 4,777 →メインのアカウント
- @Operabot フォロワー 293 →アニメーション・コンテスト用アカウント
- @operaninja フォロワー 232 →リハーサル実況用アカウント
- @WheresLillian フォロワー 17 →新シーズン演目の登場人物の架空アカウント
※フォロワー数は8月17日現在
フォロワー数みると、影響力があるのはやはりメインのみなのかなって感じですケド(^^;)
いろいろな方法で活用してみようという意気込みが伝わります。
そのうち、上から3番目の「@operaninja」は、リハーサルの時に舞台裏をツイートとするアカウントです。テイストもニンジャだけに「忍び込んだ」という設定で、面白おかしい感じで、メインでは書けないツイートをしているとのこと。
(3)斬新なイメージの採用
(1)とつながりますが、なんと、THE ポップ・カルチャー、漫画やアニメでオペラを紹介することにも積極的です。
まず、オペラのストーリーを漫画化してサイトにアップしてます( ゚д゚)もともとはファンの方?の持込だったみたいです。最初はせりふが日本語だったと書いてあるから、日本人か日本で勉強された方でしょう。(Roy Husuda さんという方らしいです)今は、シーズンごとに全部作って掲載しているみたい。個人的にはこういうのちょっと笑っちゃうんですが、ストーリーをわかりやすくドラマチックに理解してもらういいツールになるんでしょうねーー。
それに乗じてか?オペラの短いアニメーションを募集するコンテストなんか開いています。審査員にピクサーや EA の人を迎えて、というのでかなり本格的(笑)
まー、濃いメイクと時代もののコスチュームを着て迫力の形相で歌う(一部恰幅のいい)オペラ歌手のスチール写真やイメージは、もう既にファンの人にはOKですが、ライト層にはあまり関心がもてなかったりするのだと思います。
その打開策の一手法として、漫画やアニメを取り入れてるのですね。この分野は、日本にかなりアドバンテージがあるのではないでしょうか!!(笑)
なお、各演目のアートワークに関しては、エデル・ロドリゲス、マイケル・アブラハムなどのアーティストに描いてもらったりしていますね。最初にバンクーバー・オペラのサイトにアクセスしたとき、「なんか印象違う」イメージを受けたのはこれらのイラストの影響だと思います。
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以上がバンクーバー・オペラの主なネット系の施策。
ソーシャル・メディアとタイトルには書きましたが、まあネット全般でしたね。
自分たちでも「ソーシャル・メディアを積極的に活用しているオペラ団体」と明言しているだけあって、いやはやいろいろやってますわ。
これ以外にも、トリヴィア・クイズ(有名オペラ作曲家たちの死んだ理由とか。。。)や投票、アーティストの20への質問などなど、細かい企画もいろいろあるんですが、こうしてみるとやはり、敷居を低くすることに徹底しているなという感じがします。その手段としてウェブとウェブでつながれる人たちとのコミュニケーションを活用している※1。
さて、彼らの各企画、細かいところをみれば成功と言えないところもあるけど、広くアート/エンタメ団体にも応用可能なさまざまなヒントが隠されています。
※1:ちなみに、各施策の評価はGoogle Analytics、FBインサイト、短縮URLでわかる統計等での定期的な効果測定により行っているとのこと