- Aug 22, 2011
- #BLOG, #CROWDFUNDING
- kickstarter, クラウド・ファンディングとは
先々週、WEB でのクリエイター、アーティスト向け資金調達システム Kickstarter のことを4回ほどエントリしました。
- Kickstarter は2年でどれだけクリエイターを助けたか
- クリエイターにお金が集まるプロジェクトとは
- WEBで数万ドル集めるアーティストたち
- Kickstarter 成功/失敗データからみる「新しさ」
今週は、その続きでいくつか書いていこうかと思います。
まずは「Kickstarter ってお金を集めるだけなのか?」についてです。2回に分けて書きます。
※以下、Kickstarter は KS と略します。
資金を得られればそれでいいのか
『Kickstarter 成功/失敗データからみる「新しさ」』というエントリでは、アートスクールをドロップアウトした女子、モリー・クラブアップル嬢が KS を通じて $25,000 以上(目標 $4,500/達成率 573%)の資金調達をし、メディアにも取り上げられ大成功した事例を紹介しました。
そのエントリでは触れませんでしたが、実はモリーさんが KS を使うのはその時が初めてではなかったのです。
- Fund SketchyCon: A Worldwide Conference of Dr. Sketchy’s Directors
(3/3/2010)$6,305 調達(目標 $3,000/達成率 210%) - ‘I Have Your Heart’ – A Short Animated Film
(4/24/2011)$17,280 調達(目標 $7,000/達成率 247%)
※仲間とのプロジェクト
2010年3月と2011年4月に各1回実施しているんですね。そのたびに高い達成率で調達してるので、きっとこうやってお金を集めるなんらかの才があるのだと思います。
(「クリエイターにお金が集まるプロジェクトとは」でも書きましたが、基本モリーさんがやっているような「こういうの作るから支援してちょーだい」ではなく「自分のプロジェクトに支援してください」タイプは、大幅な達成率は期待しづらい種のものです)
テック系大手ニュースサイト Mashable は、彼女の一連の資金調達活動を取り上げ「アーティストにとって KS は政府の助成金より良くなるか(Could Kickstarter Be Better Than Government Grants for Artists?)」という興味深い記事を今年6月に書いています。
その中で、モリーさん本人が取材に答え語っていることは下記のようなこと。
- 今まで助成金を得ようとしたこともあったけど、経歴も所属もない彼女が獲得することはかなり難しかった
- また獲得したとしても使途に制限がある場合が多く、プロジェクトの全コストをカバーをしてくれるわけではない(たとえば制作の間の生活費は助成金から出してはいけないことがほとんどです)
そのうえで、
「私のように学校をドロップアウトしたようなくだらないイラストレーターには、基本的に助成金のチャンスがない。KS は意欲的なプロジェクトをするには素晴らしいシステム」
「KS は大衆的でスピード感がある、でも助成金はエリート主義で時間がかかるの」
※日本語は適当意訳。以下、原文英語のものは全部そうです
と述べています。
個人的な話になりますが、私も大学院修士1年の頃、アーティストの創作活動をまるっと支援するような、使い道を制限しない金銭支援に関心がありいろいろ調べたことがあったこともありました※1。
なので、この記事を読んでの彼女の訴え、そこに至る背景、そしてそれを解決するひとつの方法としての KS のような仕組みの存在の素晴らしさ(かつ、何故私がそもそも KS に関心を抱いたのかも。なんかそういうところに問題意識のひとつがあるみたいです)には「そうだよね」と思うところ、共感するところが多い。
でも、一方でこうも思ったりするわけです。
はたして、KS を使って単発で創作資金を得るだけでいいのだろうか?
いくらそのたびに調達に成功し、それなりの、もしくは思った以上の資金を得たとしても、その後どうするんだろう。それを重ねていくだけでいいのだろうか。
お金なんてすぐなくなる。
なにか作りたいと思うたびにずっとそれを続けていくのだろうか。
それって、彼女のキャリアとしていいことなのか?
これは、彼女に限らず、クラウド・ファンディングの仕組みで資金調達をしていく個人共通の課題、問いだと思います。
マイクロ・シード・キャピタルとしての KS という視点
というわけで、KS で資金調達をした人をもう一人紹介したいと思います。
過去に出版して絶版になっていた自分の本を、版権をとったことをきっかけに KS で出資を募り再出版を試みたクレイグ・モド(Craid Mod)氏です。
- Art Space Tokyo: iPad Edition + Hardcover Reprint (KS プロジェクト・ページ)
偶然ですが、東京に留学され長い間住んでいたみたいで(日本語プロフィールはこちら)本の名前は「Art Space Tokyo」。
2008年に出版したこの本をの再版及び iPad ver. を出そうとしたのがこのプロジェクトです。$15,000 の調達を目指し、$23,790 を獲得しています。
今回は、本プロジェクトの内容ではなく、調達後に彼がその経験を元に KS について書いたこの記事に注目したいと思います。
KS を調べるにあたり、KS 経験者のブログをいくつか漁りましたが、今のところ、彼のエントリがダントツによいです。勉強になります。日本でも CAMPFIRE なりなんなりで資金調達したいと考えている人には英語で長いですが是非読んで欲しい。このエントリには、彼が KS をどのように捉えているかから始まり、利用する前に行ったデータ収集と調査、その結果として彼がとった KS 戦略、具体的なプロモーション方法、そして調達後の反省点など、丁寧に書かれています。
いろいろ引用しがいがあるエントリのですが、ここで紹介したい点は、彼の KS の捉え方です。
彼は最初から「(KS で資金を調達し結果が)数冊売って終わりではいやだった」と言っています。あくまでこのプロジェクトはきっかけであり、ここをスタートとして、同じような志をもったプロジェクトと出会い、新しい出版ベンチャーのスタートアップに支援していくステップにしたいと。
「つまり、KS のことを少額ずつのシード・キャピタル(事業投資)だと考えていた。
そして、こういった視点がないと、KS の可能性をフルに使ったことにはならないし(中略)、これこそがKS の隠れた可能性なのだ」
この文章を読んだ時、「そう!」とぽんと膝をうちましたよ!
そうなんです、KS にもしろなんにしろ、その視点で使いこなしてこそ、クラウド・ファンディングの凄さ、新しさ、そして時代を一歩進めるような普遍性があるのだと思います。何回も資金調達をするアーティストを見てすごいなあ、いい時代やーと思いつつも、何かもやもやしていたものを感じていた理由は、この視点があるかないか? なのですね。(ちなみに、モリー嬢はわかりやすく例に出しただけであり、彼女にもこの視点がある可能性は大いにあります。)
たしかにこうやってWEBで制作資金を調達していくのはそれだけで新しく、すごいことなのですが、革新性は「単に単発でお金を集める」というところだけではない、というのが私の直感です。KS のようなシステムは、資金を集める期間としては30日とか長くても3ヶ月であり、それだけで用途は終了します※2。
そこだけみれば短期の資金獲得ためのシステムなのですが、ここに事業=中長期の視点、そのスタート期(とも限らないかも)として活用するという考えを入れるだけで、クラウド・ファンディングにはさらに大きな可能性が広がってくると思います。
そのひとつのキーワードが「マイクロ・シード・キャピタル」機能として捉えるということでしたが、もうひとつのキーワードがクレイグ氏の記事にも出てきます。それは……
これについては引き続き明日エントリしようと思います。
Kickstarter で得られるもの、それは実は短期的なお金ではない、という話です。
※1:一時期 UNITED STATES ARTISTS という、フォード財団など4財団が作ったアメリカの非営利団体を調べていました。ここは、毎年50名の新進アーティストに、使い道を制限しない 5 万ドルの支援をするというアメリカでも珍しい団体。
しかも! 調べたところ、今はまさに自分たちのサイトで(おそらく自分たちが選んだアーティストに対する?)クラウド・ファンディングを実施しておりびっくりしました。5万ドルの支援もまだやっているようですが、まあこの2年(私が調べてたのは2009年)でクラウド・ファンディングの仕組みが急速に定着しつつあることを感じましたよ。
※1:ちなみに、いつか別で書くかもですが、資金を集める期間が短い(KS の場合30日)方が成功する確率が高いというデータがあります。