アート好きを寄付者、支援者にする――資金調達戦略の基礎(講演の Key Takeaway)

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2 週間ほどお休みしてましたが、またちょっとブログ・モードになります~。

さて、最近このブログでは、クラウド・ファンディング(WEB での小口資金調達)の話をいろいろ書いてたけど、その新しさを明確にするためにも、ずっと今までの資金調達についてもちゃんと知りたいなーと思ってました。

だから、というわけではないんですが……^^;
先週土曜に「アート好きを寄付者、支援者に変える――「ファンドレイジング」の基礎」と称したイベントを開催しました。
講師としては、長年アメリカのオーケストラで資金調達の専門家として働かれて、今は日本ファンドレイジング協会理事を務められている伊藤美歩さん。
このテーマは、ずっと取り上げたいなとは思ってたので、まあタイミングが合ったというわけで。

伊藤さんは、実際にウォルト・ディズニー・ホール建設時の大口資金調達等、「正統派資金調達戦略」をみっちり実践された方で、かつ今、日本でも資金調達の概念や手法をいろいろレクチャー、コンサルティングされていることもあり、ものすごーく勉強になりました。
かつ、私がなんとなく「そんな感じ…?」と思っていた、クラウド・ファンディングとの違い=小口の資金調達が WEB でシステム化されただけではない可能性も、かなり明確になってきました。

※以前も、ここらへんのエントリで違いを書いてみたりしています。
今回いろいろ勉強できたことで、深めたり、訂正したりすることがあるかもなあ。

なので、今回はまず、伊藤さんのレクチャーから学んだ、「(いわゆる従来の)資金調達戦略の基本の基本」を自分なりにまとめておこうと思います。
(知識や情報はすべて伊藤さんレクチャーからのものですが、自分なりのまとめ、なので若干私の解釈も入っており、文責はすべて私にあります)
そこから、「クラウド・ファンディングとの関連」につなげるさわりのところまで、今回書けたらなと。

事前計画&関係構築の時間を十分とることがものすごーく重要

しょっぱなからすごく大雑把に、「資金調達」とは何をすることか、を言ってしまうと、それは

  • 団体のもつ夢や使命を叶えるために
  • ファンになってもらえそうな人
  • 熱烈なファンになってもらい
  • 金銭支援をしてもらうこと
  • そして支援し続けてもらうこと

ということ。

まず、新規寄付者を増やすためには「ファンになってもらえそうな人に」というポイントが重要で、だから

  • ファンになってくれそうな人をデータベース化する「潜在寄付者リスト作成」をしつつ
  • 寄付がしやすいような「寄付の受け容れ体制」の準備をし※1
  • 彼らへアプローチし、少しずつ関係を構築していく

等がすごく大事なステップになる。

つまり、(レクチャー中にも「プラン、プラン、そしてプラン」と強調されてましたが)「事前計画」と「(寄付依頼までの)関係構築」の時間を十分にとる必要があるわけです。

レクチャーでは 13 ステップからなる「ファンドレイジング・サイクル」が紹介されましたが、3 ステップのうち 9 ステップが「計画」に関わるもので、「寄付依頼」というアクションは最後から 2 つめ、12 ステップ目にようやく登場するのですね。寄付を頼む前に、大口だとだいたい 7~12回ぐらいコンタクトをとるんだとか。

小口の場合、また日本はもう少し少ないコンタクト数でいく場合が多いそうですが、それにしても「寄付」というのは膨大な準備とほぼ個人対個人の長いコミュニケーション時間の集大成としてあるものなのだなあと感心しました。

潜在寄付者は「金銭能力」×「関係の深さ」でマトリクス化する

さて、伊藤さんは「相手のことを知らないままに寄付依頼をするのは不可能!」と言い切っておられましたが、資金調達戦略の中でも、潜在寄付者の洗い出しとリサーチ、データベース化は大きな肝のひとつとなります。

では、「潜在寄付者」とは誰なのか。
レクチャーの中で、「潜在寄付者」としてあげられていた例は下記のような人たちでした。

  • まず現在の関係者 ――理事、スタッフ等
  • そして団体に積極的に関わってくれている人たち ――イベントへの参加者、定期会員、ボランティア。過去の寄付者や関係者
  • (2)よりかは薄いが団体と関係がある人たち ――(1)(2)の家族、友人、知人。取引先。ブログ、ツイッター・フォロワー等
  • その他 ――地域住民、自治体、他 NPO の寄付者等

関係の濃い薄いはありますが「なんらか関係がある人」と言えるかもしれないですね。
だから、逆に言えば「なんらか関係がある人」を日常的に少しでも増やしていくというのも大事。

at MoMA

at MoMA

もうひとつ、まったく関係がないけれども、いわゆる「お金を持っている人たち」が「なんらか関係がある人」となるよう仕込んでいくのもとても重要で、そのために関心を示してくれそうな企業や経営者、有名人等を見つけるために、ニュースやインタビュー等を日々チェックするとのこと。

これらでピックアップされた「潜在寄付者」たちを、「金銭能力 高→低 3 段階」と「団体との関係の深さ 大→小 3 段階」、計 9 つのマトリクスにカテゴリ分けします※2
このうち、「金銭能力」の高低はこちらではどうしようもないけれども、「関係の深さ」の大小はこちらのアプローチ次第なので、ここをどう「大」に近づけていくかを、カテゴリごとに作戦をたてていく。

たとえば、パンフレット送付から始まって、活動への参加の案内やアンケートのお願い、パーティの実施、委員会/理事会への参加要請等。

一例として紹介してくださったのは LA フィルハーモニー在籍時に、オーケストラ自身に関心がなかったお金持ち(金銭能力高×関係の深さ低)から最終的に 10 億寄付してもらった時のエピソードで、これはそもそも、彼が会社を売却したというニュースが発端となっているとか。
ニュースに関心を持って、彼の情報を収集していくとなんとお兄さんが弦楽器の奏者だったとのこと。
LA フィル側は彼を「潜在(大口)寄付者」とみなし、コンサートへの招待等地道に関係を築いて、最終的には10億円の寄付にいたったそうな。

これは、先程あげた「ニュースやインタビューで企業や経営者を~」というパターンだけど、とにかくこういうプロセスを資金調達部門は年がら年中実施しているというわけです。

最後に、一番重要なのは一度寄付してくれた人たちに再度支援をお願いし、リピーター支援者を増やしていくこと。(新規を獲得するには支援経験者をリピートさせる 5 倍の労力がかかる)
「寄付者ピラミッド」というのがあるのですが、


潜在寄付者を、

最初の寄付
→リピート寄付
→大口寄付
→基金への寄付
→遺贈

と、大口の寄付者に育てていくことが、資金調達専門家=ファンドレイザーの大きな役割となります。

クラウド・ファンディングは小口寄付者のハードルを低くしただけか

以上が、レクチャー内容の一部をざっとおさらいしたものです。
抜け落ちているところがわんさかあるのですが※3、資金調達をするには、いかに戦略が必要か、そしてそれはどういった種類なのか、がなんとなくまとめられていればいいのだけど(^^;)

もっと資金調達について知りたい!という方は、※4に伊藤さんからオススメの参考書籍を書いておきますので、ご参考になってください。

さて。今日書いた古くからの正統派な「資金調達」、このプロセスの特徴をすごく大まかにいうと、

  • 寄付者になってもらう肝は「団体の熱烈なファン」になってもらうこと
  • 「熱烈なファン」になってもらうためには、事前計画と関係構築がとても大事
  • その「熱烈なファン」候補は、団体となんらか関係がある人である。(「なんらか関係がある人」にする、という努力も大きい)
  • そして、初回寄付者や小口寄付者を、リピート寄付者、大口寄付者に育てていくところまでが資金調達者の役割

と言えるのではないかなと思います。

at MoMA

at MoMA

かたや、
クラウド・ファンディングとは、ざっくりいえば、WEB 上での小口の資金調達手法ですので、先に紹介した「寄付者ピラミッド」の中では、「First-Time Givers」、せいぜい「First and Renewal Gift Donors」と言えます。

WEB とオンライン決済の発達により寄付へのハードルが下がり、今までより小口寄付がより多くの人から、簡単に集めやすくなって、「小口寄付者」の量が増えた。しかも、寄付活動がしやすい団体とかじゃない個人とかも、資金調達活動が容易にできるようになった。

そうとも言えるでしょうし、実際、そう捉えている人がすごく多いと思います。私もこんなに調べ始めるまではそう思ってましたから^^;
そして、これだけで、クラウド・ファンディングの存在意義とは非常に大きいものだと思います。

しかし、私はこれまでも何回か触れましたが、今はそれ以上の可能性をなんとなく感じています。

そのヒントとなる引用を、社会的ネットワークに関する書籍から 2 つほどして、次回に続きたいと思います。

こうした過去を振り返ると、我々が手にした新しいツールは昔からの習慣が進歩したものだと言えないこともないが、これは正しくもあり、間違いでもある。確かに進歩には違いない。しかし、この進歩はあまりに深遠なため、新しい効果を作り出しているのだ。哲学者はしばしば、程度の違い(同じものだが量が違う)と種類の違い(まったく新しいもの)を区別して考える。我々が今日目撃しているのは共有における程度の違いなのだが、それがあまりに巨大なため、質の違いになってしまっているのだ※5

古いモデルの集団化行動では、小さいことを気にかけない人々を説得し、気にかけるよう持っていく必要があった。
(中略)
今までの集団行動において、非常に強いモチベーションを持った一握りの人々と動機の弱い大多数、という図式はフラストレーションの原因だった。頭に血が上った人々は、なぜ一般層が事をもっと気にしないのかいぶかしむ。一般層は、彼らがなぜそんなに熱くなるのか分からない。しかし今日では熱狂的な人々は、あまり熱心でない層を彼らのような活動家に変えることなく、有効な戦力にする仕組みを作ることができるのだ。※5

※1:銀行やクレジットカードの引き落とし、ウェブや携帯での決済等 寄付者にとって利便性が高いシステムを作ること。と同時に、クレジットカードより銀行引き落としの方が継続率が高い(クレカは更新時や解約があるけど、銀行口座はそうそう変えないため)ため、そちらに誘導するようなテクニックも必要だろう。

※2:金銭能力は名刺等で推測、関係の深さは団体との接点の多さ等で判断

※3:イベント時の実況ツイートはこちらにまとまっていますので、ご参考になさってくださいー
伊藤さんのレクチャー他、実例としてのシカゴ現代美術館の資金調達の紹介、質疑応答含めたトークなどいろいろあります。

※4:伊藤さんより、ファンドレイジング参考サイト、書籍等

※5:共に、クレイ・シャーキー『みんな集まれ! ネットワークが世界を動かす』(筑摩書房/2010 年翻訳)より

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