【後編】『ハーブ&ドロシー』の佐々木監督に Kickstarter での資金調達の話を聞きました
―クラウド・ファンディングで資金調達するということ―

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前回の続き。

前回は、ドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー』の続編 “HERB AND DOROTHY 50X50(以下、50X50)” の制作資金を、実際にどのように Kickstarter で集めいていったかを時系列で見ていった。最終的には目標対 158%、約 8.8 万ドルの調達と十分な成功をおさめたこのプロジェクトだが、経過をみてみると、労多く実り少なく……の時期も多く、ギリギリのところで最後勢いがついて集まった、と言える。

佐々木さん自身も「なにせ初回だったので何が起こるかわからず、起こったことに対してその都度対応していった」と語られているとおり、クールに言えば、戦略ばっちりな “お手本にする成功事例” というわけではけしてない。(本当にそういう”成功事例”が存在するのかわからないけど)

でも、この資金調達キャンペーンに臨んだ佐々木さんの姿勢には大いに学ぶところがある。

実際、私がお話を聞かせていただいてとても感銘を受けたのは、Kickstarter 使ってどうだったか云々という話よりかは、彼女の「心構え」のようなものだった。
そしてそれは「クラウド・ファンディングで資金調達をするとはどういうことなのか」という根っこにつながっていく。

後編では、佐々木さんの話で特に強く印象に残った 2 つのことを取り上げようと思う。それはきっと、これからクラウド・ファンディングを使って資金調達をしたいという人への、大きなヒントとメッセージになるはず。(うまく伝えられればよいのだけど)

では、後半どうぞー

資金調達は筋トレ!! とにかく、本気で、全力で取り組むこと。

まず、佐々木さんのお話でなにより伝わってきたのは、この資金調達期間中、とにかく彼女とメンバーが目標に到達するために、文字通り全力で挑んだということだ。

「本気で取り組むことがなにより大事」
「WEB にプロジェクトを掲載しとけばなんとかなるかも、じゃダメで、絶対に Kickstarter で資金を調達するんだという気持ちがないと、お金は集まらない

何事もそうだけれども、Kickstarter に関しても「あわよくば」はない、と彼女は断言している。

前編にも書いたとおり、佐々木さんは Kickstarter のキャンペーンを始めるにあたり 3 名からなる専任スタッフ・チームを結成し、彼らとともに 60 日間 Kickstarter での資金調達活動を行った。

実際に何をやっていたのか。

まず、佐々木さん本人は Facebook や twitter で影響力のある人たちや、大口の支援をお願いできそうな人たちに、毎日連絡をとり説明を続けた。Kickstarter の仕組みを知らない人だっている。寄付の方がいいって人も。もちろん、返事すらない人もいるし、逆に連絡先をオープンにしているので変な連絡もやってくる。それらにすべて対応しながら、コンタクト・リストを毎日消していったそうだ。

チェック、チェック、チェック

チェック、チェック、チェック

「恥ずかしいとか嫌われるかもとか、そういうことを考えていたら調達できない。資金調達って筋トレみたいなものなんです」とおっしゃっていたが(個人的にはこれ名言かと)、「今日はここからここまでやる」と決めてやっていけば、たとえ少々気が引けるお願いのメールや電話であったとしても、昨日より今日、今日より明日は「慣れる」。

その際に大事だったというのが、「こんなことをやってます、寄付してください」ではなく、「私達のプロジェクトに参加してください」「私達の船に一緒に乗ってください」というスタンスで話すこと。
それに賛同してくれる人、関心をもってくれそうな人にとにかくアプローチを続けた。(なので逆に「友人、知人にはさらっとお願いのメールを流す程度だった」とのこと)

そして、スタッフは Facebook、twitter、blog、ニュースレターなどの制作と更新。
「”支援してくれしてくれ”といやらしくならない書き方、頻度で、でもきちんと支援が必要な旨は書かないと伝わらないから、そのバランスにとても気を使った」そうだ。

実際、期間中の更新内容をみると、たしかに、特に 10 月入ってからはほぼ毎日なんらか更新しているが、キャンペーンに協力してくれているアーティストの話やハーブとドロシーの言葉の紹介、Kickstarter というシステムの素晴らしさについて……など、「お願いします!」だけでない、でもキャンペーンにもつながっている更新内容になっている。

その他、

  • 「ポストイットを何度も並び替えながら」相当に議論をしたという見返りの設定、
  • 期間中に「売り切れ」てしまった見返りに関しては新しいものを投入するなどの対応、
  • ペースが落ちた時に適宜入れていったてこ入れの施策(ポストカードとか)、
  • そして、キャンペーン終了後にあともう一口、支援を集めるためのパーティ開催(UST 配信あり)決定、その準備……

などなどなどなど、とにかく 60 日間は Kickstarter を通じて支援が集まるよう頭も体もフル稼働させた。

……これらの話を聞いた時、かつて佐々木さんが Jeniffer Fox さんの講演会をきいて「(Kickstarter での資金調達は)こんなに一生懸命やるものなんだ」と「目からウロコ」だったように、私も「そこまでやったんですね」と「目からウロコ」だった。
そこには「まだ準備が整っていない」とか「時間がない」とか「スタッフがいない」というような言い訳はいっさいなし。
すごい。
甘く考えていた自分を恥じた。

そして、最終的には、こういう人のところにきちんと支援はいくのだろうなとも。
それはネット経由であろうとなかろうと、きっと関係ないのだ。

「裏切ったら作家生命に関わる」――1 ドルのお金、1 人の支援者の重み

あともうひとつ強く印象に残ったこと。
それは、佐々木さんの「1 ドル払ってくれた人たち」への感謝と責任への認識の深さである。

私が実際にこのプロジェクトにささやかながら支援をした時、とっても驚いて&嬉しかったのは、支援後に佐々木さんから直接メッセージにが届いたことだった。

しかも、「日本からだったらアメリカの amazon の登録など、面倒な手続きを経て大変だったのではないでしょうか。本当にありがとうございます」といったような気遣いがあるメッセージ。定型文のような「スタッフ一同」的な御礼メールだったら驚かなかったと思うが、これは思いもかけず、「わー、支援してよかったなー!」と思ったのをよく覚えている(しかも、それにレスをしたらこれまたきちんと返ってきた)。
佐々木さんとチーム・メンバーは、支援してくれた 730 名全員にこの対応をしたそうだ※1

それ以外でも、日々の UPDATE や blog の文章、ツイッターでこのプロジェクトをつぶやいた時の思いがけないレスポンス、そして目標を達成した時の「世界最高のサポーターの皆様へ」というメッセージ……など、どれも声高に言うほど特別なことではないが、でも(感覚的な言葉で恐縮だけど)誠意とか暖かさが伝わってくる対応だなと思っていたし※2、実際、最後成功に終わった時はとっても嬉しく、なんとなく自分も一緒に旅をした仲間にほんの少しなれた気がした。今現在も「ほんとにやってよかった、また次機会があったら何か支援しよう」と思っている。
そして正直な話、私はこれ以外もいくつかのプロジェクトを支援しているが、こんなふうに感じたのは、お世辞でなくこのプロジェクトだけなのである。(もちろん、どれも成功すれば嬉しく思ったけど)

前作の『ハーブ&ドロシー』が気に入っていたとはいえ、どうしてなのかな?

その小さな疑問への答えは、
取材中に非常に印象的だった佐々木さんのこの言葉に現れているような気がしている。

「プロジェクトを達成してみて、今改めて 1 ドルのお金、1 人の支援者のありがたさと同時に重みをずしっと感じています。クラウド・ファンディングのシステムは素晴らしいけれど、そこで集まった彼らの信頼を裏切ったら、作家生命に関わるほどのダメージだと思っている」

「リターンを金銭で返すタイプより(見返りを購入する)クラウド・ファンディングはあとくされがなくていい、と言われたこともあるけど、本当は信頼関係が土台になっているこちらの方がずっと”あとくされ”があるし、責任を感じるんです。絶対にちゃんと作らなくちゃと思う」

“ああ、たとえ 1 ドルであっても見も知らない人が(知っている人でも) お金を払う時の気持ちと責任の重さをわかっているのだ。だから、これほどきちんと支援者とコミュニケーションするのだ”
佐々木さんの口からこれらの言葉を聞いた時、そう、私は思った。

前回も引用した今回の大口支援者である本田社長のメッセージを読み返せば、そのことがよくわかるはずだ。

……他人をあてにして、なにかをやろうとする人はたくさんいますが、自分である意味犠牲になっても何事かをやりたいという態度は素晴らしいし、全面的に応援したいと思いました。
ですから、すぐ決めました。

今回の続編もそうです。
ぎりぎりの期限まで、本田にメールはきませんでした。
kickstarterの仕組みで、みなさん精一杯努力されています。
そんな方々のあと、ほんの0.1%の手助けができるとしたら、本当に本田は幸運だと思います。

「ファン・コミュニティを作る」とは何なのか

クラウド・ファンディングのよさっていうと、よく言われるのが「資金を集めるだけでなく、制作段階から支援者コミュニティが作れること」だったりする。(私も書いたことがある)
実際、今までみてきたように Kickstarter のキャンペーンはそれほど簡単なものではないけれども、それでも「このシステムの本当にすばらしいところは、まだ作品が出来ていない段階から応援してくれるコミュニティができること」と佐々木さんも語っている。

でも、クラウド・ファンディングのシステムを使って、10 人なり 100 人なり支援してくれる人がネット上に集まったところでそれがすぐにコミュニティになるか?
→もちろん、ノー。

佐々木さんの姿勢から学べる最大のことは、なかば常套句として使われる「コミュニティを作る」ために大事なこととは何か、ということではないかと思う。

魔法のシステムなんてない。
自動的にできるコミュニティなんてない。
ネットにアップすれば、どんどんネットワークが広がっていくような、そんなことなんて絶対にありえない。
特に、仮に「いいね!」は集まったとしても、お金を出してくれるかどおうか、なにか行動に移してくれるかどうかはそことはまったく違う次元の話だ。

最終的には、人と人の間に何かまっすぐな、感情が行き来するか、なのだ。
佐々木さんはハーブとドロシーの姿をやはり伝えなくてはと、そのために全力を尽くして資金を集めようとした。
そして、1 ドルであれ人がお金を出してもらうということがどれだけ大変なことか、そのありがたみと表裏一体にある怖さをよく理解し、それがコミュニケーションの姿勢にあらわれた。

そこまでして初めてお金は集まるし、ファンコミュニティになっていく。

Serpentine Gallery Pavilion 2013 by Sou Fujimoto

Serpentine Gallery Pavilion 2013 by Sou Fujimoto

昔のエントリで私は、クラウド・ファンディングはそこに組み込まれたゲーム性他のメカニズムにより、「見ず知らずの人」や「支援に関心のない人」をも”活動家にすることなく”支援者の一人にできるという可能性を指摘した。

「関心が高くない人たち」を引き込み、「ファン・コミュニティ」にする。

それは、クラウド・ファンディング・サービスの大きな可能性であると今も思っているけれど、でもその可能性も、ここまで本気で取り組み、かつお金を出してくれたという意味を理解して初めて本当に可能性になる。

「WEB でファン・コミュニティ作りましょう」じゃなくて、既にそこに醸成されつつあるものがあり、そのうえで WEB はそのいろんなしくみによって「わかりやすくまとめる最後の一押し」をしているだけ。

何もないところには何もうまれない。
生むためには、
「そうやって皆から資金を集めても世の中に出したいものか」という問いかけも(答えは何にせよ)必要だろうし、
それに答えに対する覚悟も、
泥臭い行動も必要なのだ。

佐々木さんのお話の中で、一番強く心に刻んだのはこのことである。

※ ※ ※
そして、最後に。
このエントリを書き上げて更新のセットをした後に、佐々木さんからこんなメールをいただいた。

(特典発送の準備をしていて)改めて思ったのが、クラウドファンディングは、お金集めより、本当に気合いを入れなくてはならないのは、資金調達後、つまりフォローの部分だということです。
ここをしっかりやらないと、このシステムは長続きしない、と。
それに映画を今後つくり続ける人間として、コアになるファンに必ず満足してもらい、将来の映画もサポートし続けていただけるようにするには、すぐれた作品を完成させるだけではなく、かなりのケア&覚悟が必要です。その辺、今になってじわじわボディブローのように感じて来てます。

「クラウド・ファンディングでファンを獲得する、コミュニティを作る」
それはたしかに可能だし、素晴らしい部分なのだけど、それは相当の努力が必要なのだとこのエントリで書いた(つもり)しかしさらに、その後には「ファンで在り続けてもらうこと」という大きな挑戦が待っている、という重要な指摘だと感じ、取り急ぎ追記した。

実はここのところ、クラウド・ファンディングで集めた「世界中にバラバラにいるファン未満の人たちいっぱい」をその後もどう「ファン」にしていくか(たぶん、性格上まずは WEB 上でのコミュニケーションになる)、そしてその中の何割かが実際なんらかの形でその後も資金を出す/支援する(このあたりは、以前エントリした伊藤美歩さんのようなプロのファンドレイザーへのバトンタッチ)ようなサイクルを作るには、どうしたらいいかな、というのを考えていた。逆にそこまで出来た時本当に、クラウド・ファンディングも芸術団体やアーティスト(だけでなく NPO、ベンチャーなどなど)にとって有益なものになるのかなーと。

しかし、まーさーに、佐々木さんたち 50X50 プロジェクト・チームはそのサイクルの実践をしつつあるんだなーーー。
今まではクラウド・ファンディング上でプロジェクトが成立するところだけをみていたけど、その後そこで蒔かれた種はどうなっていくのか? これも何かのご縁なのだと勝手に決めて! 引き続きこのプロジェクトのことは追わせてもらいたいなと思う。
ていうか、それ以前に既に 1 ファンとして巻き込まれているのだけどけれど(笑)

※ ※ ※

……長くなったけれど、以上が私の佐々木芽生さんの取材記録です。

日本ではこれからクラウド・ファンディングを使う人や団体が増えてくると思うので、何かヒントがあればいいなと思って書き始めたけど、結局は自分への備忘録のようになってもうた(汗)

しかし本当に、佐々木さんはパワフルですてきなお姉さんでした。

佐々木芽生さん

佐々木芽生さん

某サービスの運営の方が「佐々木さんぐらい、めいいいいいいいっぱいクラウド・ファンディング・サイトを使ってくれたら嬉しい」と言っていただけれど、そういった事例が日本でもどんどん出てきたらいいなと思う。願わくばけして今、有名なわけではないけど、じっくりとよいものを作っている人たちのプロジェクトとして。

ちなみに、日本の主なクラウド・ファンディング・サービスはこちら。

Campfire
motion gallery
READYFOR?

私のクラウド・ファンディング研究もネクスト・フェイズだなーという感じで、これからまた、いろいろアプローチの仕方を練りつつ、このブログに残していければなと思っています。
何度もいってるけど、他のネタも書く!!!ぞ!!!!

なお、今も 50X50 プロジェクトは引き続き制作のための資金の支援をお願いしています。(支援ページはこちら
ご関心がおありの方は、info(アットマーク)finelinemedia.net に問い合わせるかこちらのページまで。

※1:余談ですが、実はこの取材に至ったきっかけも、私がツイッターやブログでやいやい応援しているのをみてくださった佐々木さんが「次回来日するときにご挨拶できれば」とメッセージしてくださったことがきっかけだったりします。監督自らがそこまで目を配ってメッセージしてくださるってほんとすごいと思うのです。

※2:たとええば、まだキャンペーン初期の段階に、佐々木さん自身がブログにこんなエントリをアップしている。

ハーブとドロシーが、けしてお金のために購入したアートを売らなかったことに対して、今関わる人すべてに制作費支援をお願いしているのはどうなんだろう? という葛藤がある、という話。でも、自分はハーブとドロシーの話を伝える役目があると思っているし、映画を作るのは実際資金が必要で、それを集めることなしには出来上がらないのだ、、というような「本音」が書かれている。”「いいこと」や宣伝だけ書いてある公式ブログ”というのではなく、資金調達の実際というか、嘘がない感じが身近に感じられていいなと思ったエントリのひとつ。

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