【前編】アーティスト JR と “クラウド・ファンディング・スピリット” とはなんだろうということ

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ご無沙汰しています!
ていうか、ブログ書こう書こうと思いつつ 1 年半ぐらい経ってます。Σ(゚Д゚)

現在ワタリウム美術館で個展開催中のフランスのアーティスト・JR の作品を観たことがきっかけで考えることになった、「クラウド・ファンディング・スピリット(精神)」とはなんだろう、ということについて、ワタリウム美術館和多利浩一さんに伺ったお話もふまえて書いておきます。後述のとおり、JR 展では実際にワタリウム美術館によってクラウド・ファンディングのプロジェクトも実施されたのですが、今回はそちらの実務的な話には触れていないです。(また別途、「美術館が実施するクラウド・ファンディング」というテーマのエントリを書こうと思っています)

今回のエントリは、いつもとはだいぶ毛色が違い、ある面で非常に私的な覚書であり、私にとってクラウド・ファンディングとは何なのか? 何に惹かれているのか? 大事なことはなんだろうか? というのを確認、宣言するような内容になるかと思います。案の定長いのですが(なので、前編後編に分けました)クラウド・ファンディングの奥底に流れ、それを成立させている精神、イズムとは何か、そもそもそんなものはあるのか、といったようなことに関心のある方は、是非最後まで読んでいただけると嬉しいです。

■目次
<前編>

後編

  • ワタリウム美術館が JR 展とクラウド・ファンディング・キャンペーンを実施した背景
  • 「彼自身は支援を求めていないけれど、彼のことを支援したい人はいっぱいいる」
  • クラウド・ファンディングで一番大事なこと
  • JR はやっぱりクラウド・ファンディングである
  • このエントリを書いた背景/クラウド・ファンディングというスピリット

※まずは、前提として:
JR とは世界各地でアート・プロジェクトを行うストリート・アーティストであり、かつ2011 年に受賞したTED プライズのスピーチ「アートを通して世界をひっくり返す(Use art to turn the world inside out)」でも有名。こちら、アートという世界を超えた名スピーチなので、アートには関心ないんだけど、って方も是非! ご覧くださいまし。
で、先に書いたとおり、アジア初の個展「JR 展 世界はアートで変わっていく」が現在ワタリウム美術館で開催されている。(2013.6.30 迄)
ワタリウム美術館は昨年 11 月、この個展のために JR が東北でのアート・プロジェクトを実施する費用を調達ためにクラウド・ファンディング・サイト CAMPFIRE を利用、250 万円以上が集まった。
最も世界の注目を集める写真家、JRが日本でアートプロジェクト<インサイドアウト>
今年に入り、第二弾の調達を開始したが、こちらは残念ながら目標未達。(というか、私早くブログ書いて応援しようとしていたのに、調達中は書けずじまいでした。うっうっ(T_T))
世界が注目するアーティストJRの〈インサイドアウト〉計画、ついに東京上陸

「JR ってクラウド・ファンディングだ!!!」

JR 展を観に行ったのは今年 3 月、時間がぽっかりあいたとある平日の午後のこと。

その時いた場所が表参道に近かった、ぐらいの理由でワタリウム美術館に行ったのだが、彼の作品を観ていくうちに、だんだんと頭の中に「やばい。JR ってクラウド・ファンディングだ!」という言葉が響きだした。見終わった時には、すっかり取り憑かれたようにわんわんと鳴り響いていた。
当時、もちろんワタリウム美術館がクラウド・ファンディング・プロジェクトを実施していた/しているのは知っていたが、正直そこまで強い(支援をするほどの)関心があったわけではなかった。が、この展覧会を観た後は、彼がクラウド・ファンディング・プロジェクトを実施しているのは、たまたまではなく至極当然、必然のような気がした。

「これは絶対に話を聞かねば!!!」と居ても立ってもいられない気分になり、帰宅後すぐに和多利浩一さん(たまたま以前から存じ上げていた)に「お話を聞きたい」というメールを書いていた。メールを送りおえた後に改めて TED のスピーチを見返し、ああもうこれは間違いない。彼はクラウド・ファンディングだ、と根拠のない自信を感じていた。

————–
そんな意味不明のお願いにも関わらず、和多利さんから返事が来、快くお会いする時間も開けていただいたのだが、和多利さんとの話に移る前に、なぜ私がそこまで彼の作品から「クラウド・ファンディング」を感じたのかを、(その時はわけもわからず感じていたので、完全に後付けなのだけど)自分なりに推測しておこうと思う。

彼の作品(プロジェクト)は、一貫してそこに住む人々の写真を撮影、大きくプリントアウトして街に貼っていくというスタイルをとっている。
たとえば、2004 年から 2006 年にかけて行われた 〈28 ミリ、ある世代のポートレイト〉(原題 “28 MM, Portrait of a Generation”) プロジェクトでは、市民による暴動が起こったパリ郊外レボスケの街の若者の写真を撮影、それを大きなポスターにしパリの上流階級が住む地区の壁に “展示” した。

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

2007 年の 〈向き合って〉(原題 “Face2face”) プロジェクトでは、同じ仕事をしているパレスティナ人とイスラエル人、2 人のポートレートを並べて両国の目立つ屋外に貼った。

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

私の大好きな 2008 年からの 〈28 ミリ、女性たちはヒーロー〉(原題 “28 MM, Women Are Heroes”) プロジェクト、このプロジェクトでは、弾圧や貧困、暴力等の存在が報道される世界中の地域に飛び、そこに住む女性たちを撮影、家の壁、屋根、階段、電車、いたるところに彼女たちの写真を貼っていった。

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

そして、この展覧会に合わせて東北の被災地でも実施された〈インサイドアウト〉 プロジェクト(”Inside Out Project”)。これはもう、基本的には JR がその地に行って写真を撮って展示するのではなく、世界中の人々が同じ事を自分たちで出来るようにしたプロジェクト。
具体的には、参加者はポートレート写真を撮影、それを専用 WEB サイトに送ることで、大きなポスターが返送される。それを、自分たちの地域のパブリックなところに貼って展示をするというもの。これまで 108 ヶ国約 12 万人が参加、東北では専用のフォト・ブース・トラックが準備され、そこで地元の人々約 400 名の写真が撮影された。(現在、ワタリウム美術館内にもフォト・ブースが設置されている)

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

すべてのプロジェクトを観てわかるとおり、彼一人が何か創ることでで出来上がるタイプの作品ではなく、必ず地元の人とのコミュニケーションが必要になるし、公共の場に貼られることで何かきっかけを創る可能性もあれば、剥がされる、めちゃくちゃくになる等の可能性もあり、雨風にも晒され、コントロールは不可能である。そこまで含めたものが彼の「作品」となっている。

 

JR の作品から感じ取った「クラウド・ファンディング」の匂い

たぶん、私が最初に彼の作品に感銘を受けた、もっとも率直なもののひとつは、

「アイディア自体は他の人でも思いつくことはできるかもしれないけれど、でも誰もけして実行できなかった/しなかったことを、実施するのは(住んでいる人や街が関わるので)ものすごくものすごく大変にも関わらず、軽やかに実現しているようにみえる

というところだったんだと思う。で、まずはここが既にクラウド・ファンディング・スピリッツを感じるところだったりする。(と気づいたのはだいぶ後)

Kickstarter のファウンダー Yancey Strickler 氏は、今年 4 月に MIT メディア・ラボで行われたトーク・イベントでこんな主旨のことを言った。

「どんな人にも創造性はある。でも、ほとんどのアイディアは実現することなく死んでしまう。Kickstarter は、人がアイディアを世に出すためのハードルを低くするツールだ
自分のアイディアを世に出すこと。それさえ出来れば、たとえ資金が調達できようができまいが “great victory” だと思う。」
(実際の発言の要素をまとめて意訳)

アイディアが世にでること、そして現実になることが、一番の victory。
確かにクラウド・ファンディングのプロジェクトには

  • 数年前に打ち切りになったドラマの続編のファンに寄る映画化
  • 真っ黒な杖に飽き飽きしたおばあちゃんによる「お花いっぱいの杖」を創るビジネス
  • 有名ブランドの副社長を辞任したデザイナーがインディペンデントで始めるファースト・コレクション
  • 広告費ではなく読者からのお金で運営したいと「クラウド・ファンディングで調達できたら広告バナー外します」を掲げるメディア

などなど、「こんなことできたらいいな」とうっすら思っていたことが可能になった、「やってくれたねー!」というわくわく感を伴うものが多い。(この状況が普通になったらまたわからないけれど)
そもそも、「みんなのお金で何かを良いもの、楽しいものを世の中に出す」というクラウド・ファンディングのコンセプト自体に同様のわくわく感があり、このポジティブな感覚は、少なくとも現時点ではクラウド・ファンディングの情緒面(?)での特徴であり、支持される大きな理由のひとつではないかなと思う。

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

「JR 展 世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館)より

おそらく私は、「パレスティナ人とイスラエル人の写真を並べて貼る」「暴動が起きた地域の若者のリアルな表情を、パリの上流階級の町並みに貼る」という彼の作品にも、同様の「やってくれたねー!」というような感覚を感じたんじゃないかなと思う。彼の場合は ”ハードルを低くするツール” があろうとなかろうと、実行できる才能の持ち主であるのだけれど。

なおかつ、それを、彼曰く「紙と糊の力」と言っているシンプルなツールで実現していることも(特にアメリカのクラウド・ファンディングの精神的下地となっていると思われる) DIY 文化につながるところがある。これは彼だけでなく、ストリート・アート全般に言えることだけれど。

「Face2Face」をやるのはたった 6 人の友人と 2 つのはしご、2 つのブラシ、1 台のレンタカーと 1 台のカメラ、そして、約 2000 平方メートルの紙です。あらゆる人々からいろんな支援を受けました。

――「アートを通して世界をひっくり返す(Use art to turn the world inside out)」TED スピーチより

さらには、先程言ったとおり、多くの人々――撮られる人、街の人、支援する人――が関わりながら生まれるというのも、非常にクラウド・ファンディングっぽい。

彼の作品は建物まるごとメディアとして使っているので、細やかで地道なネゴシエーションが必要です。NPO や NGO 任せではなく、単身その地域に乗り込んでいって、住民たちとリアルな対話をしなければならない。公的資金に支えられた「アートで町おこし」みたいなものにはない、訴える力と魅力を JR の作品に感じるのは、こうした背景もあると思います。

――Chim↑Pom『芸術実行犯』(朝日出版社/2012 年)p.112

TED のスピーチを観て、さらにその確信は増す。

重要なのはブランドや企業スポンサーに頼らないことです。だから責任がありません。責任があるのは自分と被写体に対してだけです。
それが作品づくりにおいて、いちばん大事なことの一つです。どうやるかが結果と同じぐらい重要です。それがいつも作品づくりの中核になっています。

――「アートを通して世界をひっくり返す(Use art to turn the world inside out)」TED スピーチより

作り手と受け手(受け手、という言い方も既に少し違うのだけど)だけ、という直接の関係で動いていくというのは、クラウド・ファンディングそのものであるし、「どうやるか」というプロセス、もっといえばプロセスの透明度にこだわるというのもクラウド・ファンディングの特徴、精神。

さらに付け加えるならば、これはクラウド・ファンディングに関係ないけど、感じたのは「軽やかさ」。軽やかさは、私にとってはとても大事。

いくつかのツールを抱えて街にやってきて、いろんな人を巻き込んで街の風景が変わり、人の気持ちもちょっと変えて、びゅーんと次の地に去っていく。そんなフットワークの軽さを彼の作品からはうける。ものすごく大きな社会的な意義があるプロジェクトにも関わらず、どこまでも「やりたいからやっている」ように感じる気負いの無さ。
それは彼のプレゼンテーションの仕方かもしれないし、キャラかもしれない。よくわからないのだけど。

とにかく、私は JR ってクラウド・ファンディングっぽいわーーと思ったし、なにより作品が気に入ったのだ。

実は JR はクラウド・ファンディングに難色を示していた

というわけで、「JR はクラウド・ファンディングだ。なんかわからないけどここにヒントがある」と根拠のない自信をもった私は、和多利さんとお会いした、その開口一番に「私、JR ってクラウド・ファンディングだと思ったんです!」と意気揚々と宣言した。

そしたら、

「そうなんです、JR 自身がクラウド・ファンディングなんです」とあっさり。

答え合わせ終了。(笑)
しかし。

面白いのは、ここからである。
さらに話をするうちに衝撃の事実が発覚する。

というのも、実は、
「JR はクラウド・ファンディング・プロジェクトをすることに、最初難色を示した」そうで。
しかも
「Kickstarter だったら絶対やらない」と言ったんだとか。

( ゚д゚)エッ(←JR は世界的に有名なんだから、むしろ Kickstarter でやればいいのに、ってちょっと思ってた)
( ゚д゚)エッ(←ていうか、そもそも JR はクラウド・ファンディングなんだから、クラウド・ファンディングに肯定的、もしかしたらノリノリと勝手に思ってた)

JR ってクラウド・ファンディングなのに、本人はクラウド・ファンディングいやっていったのかーーーー

というまさかの捻れ(?)に、唸る私。結局はそれが一歩考えを勧めるのに良かったんだけど。

なぜ彼はクラウド・ファンディング・プロジェクト実施をいやがったか。

その理由は、後編に続くぅ!

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