なぜルーヴル美術館は毎年クラウド・ファンディングをするのか――美術館とクラウド・ファンディング

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前回「美術館とクラウド・ファンディング」というテーマが出たので、今回はそこから派生して。

アメリカでは、アート関連では断然に個人がプラットフォームを通じてクラウド・ファンディングを利用するケースがまだまだ多いですが、ヨーロッパでは少し事情が違う国もある模様。その目立った例として、今回はルーヴル美術館とフランスを中心とした事例を紹介しつつ、個人利用ともまた違う「パブリックな組織とクラウド・ファンディング」の特徴や、なぜ利用されているかについて触れてみたいと思います。

  ※今回、実際にルーヴルの担当者にインタビューを実施した佐々木周作さん(大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムでオンライン寄付を研究されています)から多くの情報を共有していただいています。ありがとうございます!

■目次

毎年クラウド・ファンディングを実施しているルーヴル美術館

おそらく「ミュージアムとクラウド・ファンディング」の現時点での大成功例であり代名詞となりつつあるのがルーヴル美術館。

ルーブル美術館

ルーブル美術館

実はルーヴルは 2010 年から年に一回、現在までに 3 度、美術館のためのクラウド・ファンディング・キャンペーンを実施している。既存のプラットフォームは利用せず、独自で創った専用ページ「Tous mécènes !(=みんな、パトロン!みたいな意味)」を利用。

第一回から第三回のキャンペーン内容と実績はこんな感じ。

  • 【第一回】2010 年 11 月~:
    ルーカス・クラナッハの絵画《三美神》購入費用として/約 7,200 名から 126 万ユーロ調達
  • 【第二回】2011 年 12 月~:
    エジプト文明の貴重な建築の修復費用として/約 1,920 名から 50 万ユーロ調達
  • 【第三回】2012 年 10 月~:
    13世紀の象牙像2体(「聖ヨハネ」と「シナゴーグのアレゴリー」)購入費用として/約 4,000 名から 80 万ユーロ調達

さらっと書きましたけど、えっ、ゴイスーですよね?
まずはここに至る背景と現状、なぜ彼らが毎年やっているのか、というところをもう少し丁寧にみてみる。

ルーヴル美術館が「Tous mécènes !」を始めた背景と結果

ルーカス・クラナッハ《三美神》(1531) ※実際にルーヴルに展示されてたところを 2014 年に撮影

ルーカス・クラナッハ《三美神》(1531) ※実際にルーヴルに展示されてたところ

そもそも「Tous mécènes !」は、2010 年にルーヴル美術館がルネサンス時代のルーカス・クラナッハの絵画《三美神》を獲得しようとした際に、思うように資金が集まらなかったことに端を発している。

フランスはざっくり言うと、「国の予算の中で文化予算の割合が大きいタイプの国」(※小さい国の代表はアメリカ)なのだけど、やはり文化系の予算はかなりカットされており 2000 年から 2010 年の間にミュージアム関連予算は 32 百万ユーロから 16 百万ユーロ、作品購入資金も 2009 年から 2012 年の間に 20 百万ユーロから 8.5 百万ユーロまで落ち込んだという※1
加えて、リーマン・ショック前後から始まる世界的金融危機の関係もあり、それまでは、本作品のような名のあるアーティスト、作品については企業スポンサーで購入資金を調達できていたが、今回は必要額 400 万ユーロ中 200 万ユーロしか集めることが出来なかった。残り 200 万ユーロ中、100 万ユーロはルーヴル美術館の財源で賄うこととなったけれど、あと 100 万ユーロ。これをどうするかということで検討されたのが、「広く個人からの支援を集めること(クラウド・ファンディング)」なのだ※2

実は、ルーヴル美術館はその時既に “クラウド・ファンディング” の実績があったりする。それは、同じく 2010 年の初頭、館が所蔵しながら、その脆さゆえ 100 年間倉庫に保管されたままであったエジプト文明時代の棺(タネチェムトの棺)の修復費用に対する支援を美術館公式サイトにて募ったところ、100 人以上から 2.5 万ユーロ集まったというもの※3
なもんで、もちろん作品獲得の費用 100 万ユーロを一般から集めるということが有効か否かについて館内で議論はあったものの、最終的にはこの時の経験から「やってみよう」ということになり専用サイトを制作、11月にオープンする。これが第一回「Tous mécènes !」キャンペーンの始まりである。

  ※このクラナッハ絵画獲得資金調達キャンペーンに関しては、下記記事に詳しいのでこちらもご参照ください。
ルーブル美術館の新星に寄付金が殺到(2011. 3)

さて、このキャンペーン。対外的には 100 万ユーロ不足していることを公言していたものの、当初美術館内では 30 万ユーロ調達できればいいだろう(まあそれもすごい額だけど)、と考えていたといたんだとか 。

しかし、実際にサイトを開始するとすぐに 10 媒体以上から取材を申し込まれるほどの話題になり、調達開始から 4 週間の 12 月中旬には 100 万ユーロの目標に到達。美術館側の予想を遥かに上回るスピードに目標達成後の受付終了対応が遅れ(!)、最終的に調達を終了させた時点で約 7,200 名から 126 万ユーロの支援が集まるという大成功をおさめることになる。

その後、ルーヴル美術館は《三美神》の獲得に成功、2011 年の 3 月に「一般の人からの支援によって獲得した《三美神》」として大々的に公開された。

第二回、第三回キャンペーンの概要

第二回と第三回の概要もちょっとだけ。
《三美神》獲得資金調達プロジェクトが成功した後、ルーヴル美術館は 2011 年と 2012 年の年末にも「Tous mécènes !」プロジェクトを実施する。

■第二回
第一回の約1年後となる 2011 年 12 月に発表。
今回は作品購入費用ではなく、「カイロの財宝(The treasure of Cairo)」と呼ばれる2つの作品、マムルーク朝のポーチとマシュラビーヤ(イスラム美術の格子窓)の修復費用の支援をして欲しい、というもので、この 2 つの作品は、当時ルーヴル美術館が 2012 年夏公開を目指し準備を進めていたイスラム美術専門の新展示室でお披露目されることとなっていた。
美術館側は、120 万ユーロかかる修復費用の内、50 万ユーロを一般から調達目標として設定、期限を 2012年 の 2 月末までとしたところ、1,920 名の支援者から目標の 50 万ユーロを調達する。

■第三回
2012 年 10 月に発表された第三回は、第一回目と同様作品の獲得資金の調達キャンペーンを実施。

第三回「Tous mécènes !」キャンペーン・ページ

第三回「Tous mécènes !」キャンペーン・ページ

13 世紀の象牙像 2 体(「聖ヨハネ」と「シナゴーグのアレゴリー」)なんだけどここにはちょっとしたドラマがある。実はこの二体はルーヴル美術館が所蔵する「十字架降架」シリーズに長いこと欠けていた 2 体であり、美術館側も獲得することをほぼ諦めていたのだけど、この年に所有者の孫が売却を申し出たため獲得が可能になったというものなんだそう。
こちらは購入費用 260 万ユーロのうちの 80 万ユーロを一般から調達することを目指し、無事 2013 年 1 月末までの期限内に 4,000 名から 80 万ユーロを調達することに成功している。

「Tous mécènes !」プロジェクトの特徴

第一回から第三回を通じての「Tous mécènes !」キャンペーンの主な特徴はこんな感じ。

  • 期間限定のキャンペーン(だいたい2-3ヶ月)
  • ただし、目標額に達成した時点で終了(第一回のみ異なる)
  • Kickstarter をはじめとする多くのクラウド・ファンディング・プラットフォームが採用している「期限までに達成できなかったら調達額は 0 円」という仕組みは採用していないが、目的(作品購入等)が実行できない可能性はある。
  • 提案金額は8種類(20ユーロ、50ユーロ、100ユーロ、200ユーロ、300ユーロ、500ユーロ、1,000ユーロ、1,500ユーロ)。提案金額ごとに違うリターン(支援の報酬)が設定されているわけではない。また、提案金額以外の額を自由に設定することも可能。
  • ただし、目標額に達成した場合下記のような支援者へのリターンは準備されている
    ●全支援者=展示の際支援作品近くの壁面に全支援者の名前が記載される(期間限定)
    ●200ユーロ以上の支援者=閉館日である火曜日の支援した作品の閲覧が可能
    ●500ユーロ以上の支援者=一般公開前のオープニング・パーティに招待される
  • 支援した金額は寄付金扱いとなり税控除対象となる

Kickstarter のような営利企業がビジネスとして行う、リターンの魅力も大きな引き金になる「購入型クラウド・ファンディング」と、従来のミッションへの共感としての非営利組織への寄付、その中の「オンライン寄付」との中間ぐらい、という印象。

通常のオンライン寄付との相違点としては、組織全体への寄付ではなくプロジェクト単位であること、期間限定であること、支援へのリターンの存在が挙げられ、乱暴にいえば一番近いのは「マインドは寄付に近い購入型クラウド・ファンディング」かなー。

また、支援額/支援者の特徴としては、

  • 各支援額:1ユーロから4万ユーロまで幅広い
  • 平均支援額:160ユーロ
  • 一番人数が多かった支援額:50ユーロ
  • 平均年齢:56歳 ※4

うーん、年齢層高!! たぶん、多額を払う人も多くて、なもんで平均支援額も高い。

実際、佐々木さんの取材によると支援金の支払方法はオンライン決済とそれ以外(銀行振込、直接美術館で等)が半々ぐらいの割合※5で、館内に申込書も印刷された告知リーフレットを置いたり、とオフラインでの告知、受け口もかなりしっかりしてたそうだ。

実際に美術館に置かれていたリーフレット(第三回のもの)

実際に美術館に置かれていたリーフレット(2014 年に実施された第四回のもの)

こういうところもやはり、Kickstarter 的な購入型クラウド・ファンディングと今までの非営利組織の寄付の中間ぐらいの位置づけになるのかなーと思う。

「美術館のVie(命、生涯)に参加する」――年一回のイベントへ

さて、このルーヴル美術館の事例でなにより「面白い!」と思ったのは、第一回と第二回・第三回で、キャンペーンに対するルーヴル美術館の捉え方が全然違う、と感じられたところ。

第一回は上記に書いたとおり財源不足が発端の “苦肉の策” としてのキャンペーンだったのだけど、第二回のプレス・リリースにはこんなことが書かれている。

「美術館はエジプト建築の二つの傑作の修復に参加する機会を広く一般に提供します」
「私たちは、この新しい冒険に乗り出す興奮を人々と共有したい※6

「お金がないの。お願い!」というのではなく、「普段は関われない、美術館のプロジェクトに参加できる機会だよ」という言い方に変わっている。

さらに、第三回プロジェクト開始時に ARTINFO がルーヴル美術館修復師エリザベス・アントワン(Elizabeth Antoine)氏に行ったインタビュー、そこで彼女は

  • 第三回プロジェクトが実施されたのは第一回と第二回の成功により、一般から資金を調達するのは「よいアイディア」であるとルーヴル美術館がみなしたこと
  • 館長と資金調達の関係部署は、このプロジェクトを毎年実施するイベントとしていきたいと考えていること

を明らかにしている。

なるほどー、ルーヴル美術館はこのクラウド・ファンディング・キャンペーン・シリーズ「Tous mécènes !」を、「年に一回の市民と美術館の風物詩」的な感じにしたいんだなあ、きっと。

たしかに、美術館がどんなミッションの元に何の作品を獲得しようが、修復しようが、人々にとっては「どーでもいい」というか、全然知らないことだったりするけれど、それを「少額のお金を支払ってもらう」ことで、年に 1 度館とフランス国民が一体になる機会が作ることできる。(ちなみに支援者の 96~98% がフランス国民。サイトもフランス語しかないし!)

これって、

  • パブリックな存在たる文化施設、美術館が、
  • 近年より求められている「より市民を巻き込んでいくこと」「市民に権限を与えていくこと」※1を実現するために、
  • クラウド・ファンディングの「支援者になることで、何かを達成するまでのプロセスに参加することになる」という特徴を利用してる

ということなのでは。そう気づいた時、「なるほどー、ルーヴル美術館すごいなー、早いなー」と感心した。
そして後でまたまとめるけど、この部分こそが、資金を調達するという意義と同様、もしくはそれ以上に、ミュージアムがクラウド・ファンディングを活用する意義なのではないかと思う。

同美術館開発メセナ部ディレクター、クリストファー・モナン(Christophe Monin)氏はこんなことを言っている。

「これはただ単に、何ユーロかをルーヴルにあげるということではなく、美術館のVie(命、生涯)に参加するということなのだと思います」
「自分の家のサロンにクラナッハの絵を飾ることはできないけれども、その寄付のおかげで、この絵が美術館に存在することができ、みなが鑑賞できる。自分はこの絵のわずかな部分の所有者であるという誇りのようなものが生まれるのだと思います※2

(「美術館のVie(命、生涯)に参加する」――なんてすてきな言葉!!!)

そして、支援者もこんなことを。

「こう言っては妙に聞こえるかもしれませんけれども、寄付をしたことによって、この美術館が自分のメゾン(家)のような気がします※2

実施者と支援者、互いのこの言葉は、このプロジェクト及びクラウド・ファンディングの良き特徴のひとつを物語っていると思う。

広がる文化関連組織によるクラウド・ファンディング

さて、ルーヴルの成功を受けて、フランスではミュージアムや文化関連施設等がクラウド・ファンディング・キャンペーンを始める例が出てきている。

例えば、リヨン美術館
彼らは昨年 2012 年 9 月からやはり 19 世紀のフランスの画家ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングルの絵画を購入する費用調達のためにやはりクラウド・ファンディングを利用し、約 900 名から 8 万ユーロを集めた。

既存のプラットフォームを利用する例も出てきており、例えばフランスのクラウド・ファンディング・プラットフォーム My Major Company では、2012 年 9 月にパリのパンテオンやモン・サン=ミシェル等、文化遺産の修復費用を募るキャンペーンが 4 プロジェクト同時に立ち上がっている。中でもパンテオンは 5,000 ユーロ目標のところ、期限の 1 月までに 1,183 名から 68,565 ユーロを調達、他プロジェクトも 10,000 ユーロ以上の費用を調達している。

パンテオン修復費用調達のクラウド・ファンディング・キャンペーンについて報じるメディア(11/08/2012)

パンテオン修復費用調達のクラウド・ファンディング・キャンペーンについて報じるメディア(11/08/2012)

  ※昨年 12 月に NY Times がフランスのこれらの動きに関する記事をアップしているが、そこには「My passion is history」といって、パンテオン修復費用のために 300 ユーロを支援、リターンとしてもらえる「修復記念のオープニング・パーティへの招待」を楽しみにしている 36 歳の警察官のコメントが掲載されている。

また、フランス以外のヨーロッパ各国にもこの動きは出ている。
かなり有名なところが実施した例としては、本年 6 月から始まるヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展にて、イタリア館が資金の一部を民間からクラウド・ファンディングで集めるキャンペーンを今年 2 月からつい先日 5 月 12 日まで実施している。これは、イタリアの文化省(the Ministry for Cultural Heritage and Activities)との連携による企画。間接?ながらも国がクラウド・ファンディングですよ!(驚)


↑クラウド・ファンディング・キャンペーンについて語るイタリア館のキュレーター

the art newspaper の記事によると、2011 年の時は150 万ユーロだった国からの助成が、今回は 60 万ユーロになり、これでは、パビリオンを作るとの運営費でいっぱいいっぱい、ということで、追加の作品制作費、教育関連、宣伝関連等の資金を集めることになった模様。

ちなみに、5 ユーロから参加可能で 1 万ユーロまで 7 つの支援の見返りが準備されており、支援者は全員名前が記載された上に、300 ユーロ以上だとイタリア館の開館式にご招待、1,000 ドル以上だとガイド・ツアーがあって、2,500 ドル以上は出展アーティストたちの限定版プリント・・と、かなり豪華!
目標額は特に明記していないのだけど、「◯万ドル集められたら~~ができる」というのを 12 万ユーロまで書いており、最終的な調達額は 178,562 ユーロなので、もちろん不足分を全部補えるわけではないが、おそらく当初運営側が当初考えていた目標は達成されたんじゃないだないかなあ。

「仲間」になりたい人は、実は結構いる。だから「頼んでみる」

これら「文化組織とクラウド・ファンディング」に共通しているのは、まず「もともと必要な金額のすべてをクラウド・ファンディングで調達しようとしていない」ということだ。

ルーヴルもそうだし、リヨン美術館の例でも必要な費用のうち 90% は従来の方法(自治体からの助成、企業スポンサーシップ等)で賄っている。そもそも、購入費用や修復費用、展覧会の運営費等は莫大だし、「集まらなかったらやらない」ですむものでもない場合が多いと思うので、フタを開けるまで予測がつかないクラウド・ファンディングに頼るのは非現実的である。

そうではなくて、もちろん厳しくなる一方の文化予算の少しでも足しになることも期待されつつ、先のルーヴルの時に触れたような「市民とともに作っていく」「個人をパブリックな活動に巻き込んでいく」こと。文化関連組織他パブリックな組織の場合は、そういったことの手段のひとつとして、クラウド・ファンディングが注目をされているのではないかと思う。こちらの記事によると、リヨン美術館が実施した際に発表したドキュメントには、寄付の簡単さ等とともに「市民アイディンティティ」も強調されているとか。)

ルーヴル美術館のクリストファー・モナン氏が言っているこんな言葉が面白い。

  • (最初の最初、エジプトの棺の修復費用を WEB で集めた時、一般の人からのポジティブな反応にを見て)「このポジティブな結果を見て思いましたね。『頼んでみればいいのだ』と。」
  • (第一回のキャンペーンは)「それこそ『頼んでみなければ分からない』という経験から実行に踏み切ったのです」

「頼んでみる」

そう、組織側は「人々に少額でいいからお金を下さいというなんて」という気持ちをつい持ってしまうかもしれないけれど、そうではなく「頼んで」みれば、意外とみずから喜んで少額を支払う人――つまり、機会があればその活動を自分は応援しているということを表明したい人、「メンバーシップ」とかっていうとちょっと敷居が高いけど、こういうゆるーい形で「仲間」になりたい人は、実は結構隠れているということにルーヴル美術館は気づいている。そして他の文化施設もそれに倣おうとしているような、そんな感じを受ける※7

繰り返しになるけれど、こここそが、(個人がやるクラウド・ファンディングとはまた少し違う)組織にとってクラウド・ファンディングがもしかして役に立てる点、うまく使えば有用な点であると思う。

もちろん懸念点もあって、いくつか指摘が集まっているのは、多くの人達が「仲間」になりたがるような有名なところやわかりやすい分野であり、そうでないところは集まらないのではないかということ。
これは、私はそうだろうな、と思う面もあって、それは前の方で書いたけど、ルーヴルの事例などは、リターンの魅力やプロジェクトのわくわく度が重要視される「購入型」というより、ミッションへの賛同者を募る「寄付型」に近いから。

たとえば地方の、あまり名の知られていない小さな文化施設がクラウド・ファンディングを実施する場合は、より前者と後者をミックスさせて効果をあげていく企画性みたいなのが必要になってくるとは思う。そのあたりはもう少し研究が必要なところだけど、「こういうやり方もあるんだな」という実例もいくつかあって、それはまたアーティストとクラウド・ファンディングのテーマの時に書ければいいなと思ってます。

実際の運営について

最後に、ルーヴル美術館に戻り、実際の運営のところをほんの少し。

「Tous mécènes !」は、組織としては開発部(development)内の個人寄付(Individual Giving)担当という約 5~6 名からなるチームが担当しているという。(何のキャンペーンをするかは、彼女たちの企画ではなく美術館のトップの判断)

今までそれぞれ作品購入と作品修復のキャンペーンをやったが、結果をみてもなんとなくわかるとおり、作品購入のための資金調達キャンペーンの方が集めやすいことがわかってきたそうだ。いくつか理由があるのだろうけど、佐々木さん曰く

作品購入は新規事業のための資金、作品修復は運営のための資金を集めるのに似ている。Tous mécènes ! はクラウド・ファンディング・キャンペーンの形をとっているからだから、単一プロジェクトとして成立しやすい新規事業系のキャンペーンの方が向いているのではないか」

とのこと。それは私もそうなのかなって思う。なんかこう「新しく獲得する!」という方がプロジェクトとして、目標に向かっていく感が高いというか。。。

ルーヴル美術館の担当者たちも、キャンペーンを成功させるのにとても重要視しているのは「プロジェクトのストーリー」「キャッチコピー」「サイトの見栄え」で、これらをいかに簡潔に、洗練されたものにしてアピールできるかがポイントであると、何度も強調していたという。やはりそのあたりは、通常の非営利組織への寄付というよりかは、購入型クラウド・ファンディングのセオリーが適用されるところなんだろうな。

そしてやっぱりなにより大変なところは「問い合わせ対応」。盛り上がれば盛り上がるほどこの業務が膨大になるのがクラウド・ファンディング実施の大変なところ。特に第一回は、予想以上の問い合わせの多さにてんてこ舞いになったそうだ※8

しかしながらもこうして第一回から第三回まで、順調に目標を達成しているルーヴルは、今年も年末に作品購入費用獲得キャンペーンを行う予定にしているとか。
今回はどんなプロジェクトなのか楽しみだし、ルーヴルの壁に名前が掲げられるならちょっと私も参加してみたいかも~。(というか、そのタイミングで美術館に取材かな? ルンルーン♬)

【追記】
この年の秋に、実際にルーヴル美術館に行きクラウド・ファンディング・キャンペーンがどのように館内で行われているか見てきました。また、今回は実際も支援もし、調達達成後にルーヴル美術館から届いた手紙の写真もちらっと公開しています。

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※1:Nicolas Misery. (2013.4). “The Cranach syndrome. Calls for private donations for museums’ art acquisitions: new perspectives for the French Public Cultural Institutions funding?“. TAFTERJOURNAL N. 58.
(2013 年 5 月アクセス)

※2:鈴木春恵. (2011.3.8). 「ルーブル美術館の新星に寄付金が殺到」. JBPress.
(2013年2月アクセス)

※3:ルーヴル美術館公式サイト日本語版「皆様のご寄付により実現したプロジェクト」より
(2013年2月アクセス)

※4:(※2)及び佐々木氏の取材より

※5:とはいえ、フランス全体での全寄付中「オンライン寄付」の割合は 8-9% とのことなので、それに比べらればかなりオンラインの割合が高いってことになるのかな? うーん

※6:ルーヴル美術館プレス・リリースより
New goal for the Louvre’s “Tous mécènes!” public appeal:Half a million euros by February 29, 2012 to restore two Cairo treasures” (2011年12月1日発行)(2013年2月アクセス)

※7:少し脇にそれるが、「パブリックな施設とクラウド・ファンディング」ならではの特徴としてもうひとつ。そういえば、ワタリウム美術館のクラウド・ファンディング・キャンペーンに関して和多利さんにお話を聞いた時、「美術館がクラウド・ファンディングをする場合、個人や企業が実施する時とちょっと違って、たとえば支援者への『ありがとう』の言い方ひとつとってもちょっと考える、『ありがとう』と言い過ぎられないところがある。なぜならばやはり美術館はパブリックな存在だから、特定の人により過ぎるのはよくなく、中立の立場であるべきだと思うから。」とおっしゃっていたのが印象的だった。

※8:こちらも和多利さんから聞いた話で少し補足。
もちろんクラウド・ファンディング・キャンペーンを実施する際に、日々の運営やリターンを送る作業はとてもとても大変なんだけれど、それが最大のネックではなく、やろうと思えばできるとのこと。
一番のネックは、「やりとりする人に自由に発信する権限を与えられるか否か」。担当者がリアルタイムに送られてくる支援、メッセージといった面白さ、ライブ感、もしかしたら炎上の匂い、それらを感じて、それに応じて臨機応変に対応できるか。
それができないと、そしてなによりやってる方が楽しくないと、クラウド・ファンディング運営は難しいだろうとおっしゃっていた。(ちなみにワタリウム美術館では、これらを基本的に和多利さんご自身が直接やられていた)
これはクラウド・ファンディングのみならずソーシャル・メディア全般にいえることで、日本にも多くいるソーシャル・メディア活用に熱意をもっている文化施設担当者の方々にとっての大きな壁であると思う。

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