美術館 WEB の game changer(2):Walker Art Center の WEB 戦略

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ちゃんとしたブログを書くのは 1 年以上ぶりです。「美術館 WEB の game changer(1)」としてアムステルダム国立美術館のことを書いたのは 2013 年の 10 月なんだけど、思い立ってようやくシリーズ第二弾を書きます(笑)。

当時から書きたいと言っていた、Walker Art Center が 2011 年 12 月にロウンチした「革新的な美術館 WEB」について。これに関しては 2 年前、tumblr に少し書いていてまずはそれを転載した後、その時書いていないことをいくつか補足として書き足しました。

それまでの美術館 WEB の概念を大きく変えた Walker Art Center

[2013/1/11 の tumblr より転載]

今、世界中の芸術団体で一番革新的なサイトは、と聞かれたら、迷うことなく Walker Art Center と答える。私のみならず、おそらく現時点ではそう答える”museum tech”な人は多いと思う。

Walker Art Center は 2011 年 12 月に公式サイトをリニューアルして、大変な話題を呼んだ。なぜかと言えば、彼等は自分たちのサイトを

“an online hub for ideas about contemporary art and culture, both inside the Walker and beyond.”

こんなふうに位置づけ、通常の公式サイトの枠を大きく超えた、Walker Art Center の情報を扱うだけを扱うのではない、世界中のアートの話題を扱うプラットフォームに生まれ変わったからだ。

Walker Art Center

Walker Art Center

いろいろ特徴があるのだけど、特に注目されたのが、世界中のサイト――他芸術団体から、NYT、BBC といった主要メディア、Hyperallergic といったアート特化サイトまで――から縦横無尽に彼等が面白い、大事だと思う記事を選び、トップページに表示させたこと。

たとえば今みてみると、

  • 絵画を観る時の目の動き

なんて話題から、

  • オスカー・ノミネーション
  • デヴィッド・ボウイの復活
  • Creative Capital の助成金
  • マシュー・バーニーがオークションにスケートボードを寄付

といった記事が並ぶ。(今はたまたまカルチャー系っぽいのが多いけど、ゴリゴリの?アート系の話題も)

もちろん、勝手に自動表示させているのではなく、受賞経験のあるジャーナリスト Paul Schmelzer 氏(かつて Walker Art Center のブログ等の編集もしていた)をスタッフィングしての、きちんとした”キュレーション”である。そんなことする芸術団体は、これまでどこにもなかった※1

多くの人が彼等のリニューアルについて記事やブログを書き、芸術団体の公式サイト、というのものにおける “Game Changer” だと言った。2012 年の Museum and the Web の最優秀 Best of the Web も受賞した。

彼等が “Game Changer” たるゆえんは、下記のようなものが挙げられる。

  • 近年アート関連の記事が減る一方の主要メディアに代わり、自らがメディアとなりオーディエンスとダイレクトに対話し始めたこと。
  • 自らの発信のみならず、世界中さまざまなメディアの見方を混在させることで、「対話の場」としての役割を目指したこと。
  • そして、実際にセンターを訪れることができるかどうかは関係なく、現代アート/カルチャーに関心のある人すべてを自分たちのコミュニケーションの相手であるとしたこと。

美術館やアート・センターはその地域のコミュニティ・センター、ハブであるべきである、という議論は大昔からあるわけだけど、それをオンラインで挑戦したということで、とても野心的であり、すごいと思った。

もちろん、これを継続することは、スタッフ・コストの面でも投資が必要であるし、いかほどの彼等の望んだ”成果”が出た/出るのか、本当に game changer となったのか。。などはこれからの検証が必要であるのだけど。(よくあるのが、「早すぎた」パターン)1 年経って、新鮮さがなくなった今年が勝負なのかも。

ちなみに Walker Art Center はクラウド・ファンディングにも関心が高く、Kickstarter の創立者を呼んで、地元のアーティストとの交流を企画したりしていて、なんか「気になる」んですよね、いろいろ。。彼等のピックアップすることや、動向にはこれからも注目だなーと思っている。

って、一度も行ったことないんだけどね!(→ここ重要です。まさに今の時代の芸術団体における “visitorship” とは、ということだから)

[以上、転載終わり]

「2 つのポータル」を作るという発想

ここからが 2015 年の追加。
この後出た彼らのメディアでの発言や、2013 年の Museum Ideas で聞いた Walker Art Center(以下、WAC)のニュー・メディア・チームディレクターのプレゼンテーション(それ自体はより大きくパブリッシングの話だったのだけど)を元に、もう少し突っ込んだところを補足しておこうと思う。

まず、サイト・ロウンチまでのマイルストーンをざざっと紹介すると、プロジェクトが開始したのがロウンチの約2 年前となる 2010 年の年初。当初からの方向性としてあったのは、「メインとなるサイト(home page)」と「カレンダー」を分けること=2 つのポータルを両立させるスタイルにすること。

左が home page、右がカレンダー

左が home page、右がカレンダー

「カレンダー」は実際に Walker Art Center を訪れる来館者たちに向けてのページで、従来の美術館 WEB でも必ずあるもっとも基礎となる情報部分である。一方、「メインとなるサイト」は “Walker as content provider”、つまりコンテンツを提供するサイト=オンライン・アート・マガジン型のサイト(by 館長 Olga Viso 氏※2)。↑に書いた game changer な WEB の構想はそもそも最初からあったようだ。

10 年の夏に全スタッフに WEB の新しいコンセプトが告げられ、本格的なスタートが始まる。WEB リニューアルの実務は、ニュー・メディア・チームとデザイン&エディトリアル・チームが担当※3、デザインは外注ではなく内部で行われた。来館者に向けての WEB とは別に、オンライン・ハブとしてのまったく新しいニュース/マガジン型 WEB を作る、というコンセプトは当初からあったものの、実際にどのようなスタンスで行くのか(例えば、自分たちの記事と外部記事をどのくらいの割合にするのかなどなど)は翌年 9 月(ロウンチ 3 ヶ月前)に上にも書いたジャーナリストの Paul Schmelzer 氏が WEB エディターとして加わる頃まで議論が続けられる。そして 10 月末にベータ版がリリース、同年12 月 1 日に正式オープンとなる。

外部記事を積極的に紹介していく姿勢

サイトの内容も少し細かく見ておく。トップページにある主なコーナーはこんな感じ。私の知る限り、11 年 12 月のロウンチ以来、今も(多少のレイアウト変更などあったかもだが)基本的には変わっていない。

  • Top Stories:最新の記事。ここは基本 WAC で作られた記事が並ぶ。(たぶん)
  • Art News from Elsewhere:本 WEB の最大のポイントである「世界中の記事を集めた」コーナー。
  • WALKER BLOGS:2005年からやっているブログ
  • MINESOTA ART NEWS:提携しているミネソタのアート・サイト(mnartists.org)からの記事
  • Artspeaks:現代アーティストの声(ビデオ多し)
  • From the Archives:過去の WAC での企画から今日の新しい関連性を与える
TOP STORIES の下にある "Art News from Elsewhere" コーナー

TOP STORIES の下にある “Art News from Elsewhere” コーナー

WAC オリジナルの記事、コンテンツと外部記事の割合は(驚くことに)「少し外部が多いぐらい」になるようにしているという。
しかも、地味にすごいなと思ったのは、紹介されている外部記事をクリックした場合「新しいタブ(ウィンドウ)」が開く=WAC のサイトは開いたまま、のではなく、自分たちの記事にアクセスする時と同様同じウィンドウ内でリンクさせたことだ。=つまり、一度外部サイトの記事にアクセスすると、WAC のサイトから離れてしまう。

WEB エディターの Paul 氏によると、この仕様に関しては内部で議論があったそうだが、結果「自分たちが一貫して意義がある(そして時に楽しい)外部記事を提供し続ける WEB であるならば、(たとえ一度 WAC のサイトを離れて外部のサイトに行こうとも)人はまた必ずアクセスしてくる」という信念により、今の形に決めたそうだ。(なにそれかっこいい)

さらに言えば、彼らは自分たちの記事の最後に “MORE LIKE THIS” としていわゆる「この記事読んだ人はこの記事もいかが」というレコメンド・リンクを表示させているのだが、それも堂々と?外部記事を紹介している。

記事を最後まで読むと、こんなお薦め表示が出る。WIRED などの外部記事も。

記事を最後まで読むと、こんなお薦め表示が出る。

なんというか、、、ものすごく徹底しているのだ※4

人々と、世界と「関係をつくる」ためのニュース・フォーマット

さて。もっとも気になるのは、「そもそもなぜこんな WEB を作ろうと思ったか」だと思う。
ロウンチ当時の館長の言葉によると、

「コンテンツを作り出し、提供する者としての WAC という役割を明確に打ち出すこと、自分たちの声を広く現代のカルチャーの中へ伝える」
「近年劇的にアート関係の報道が減っているメイン・ストリームのメディアのオルタナティブのメディアとして重要な役割を担う」※2

となっているが、WEB エディター Paul 氏はもう少し突っ込んで、こんなふうに述べている。

「(この WEB を通じて)関係(relationship)を作ろうと思っている。コンテンツはそれを作るための手段だ※5
(relationship を作る、という言葉はキーでデザイナーなど他のスタッフの発言の中にもある)

関係、とは誰と誰との? それは、「WAC が行っていることと、アート・コミュニティ、もしくは世界」

Paul 氏曰く、WAC のサイトは、「芸術はもっと人々の生活に関係があるものになりえる」ということに取り組んでいて、ゆえに、「情報提供とそれらの検索」タイプになりがちだった従来の美術館 WEB はきっぱりと止め、ニュースを提供するという今のフォーマットが有効なのだという。芸術は、世界中で起こっている出来事(大きなことだけじゃなくてとても小さなことまで含めて)にインスパイアされているもので、それを記事という形で伝えることが「世界と関係を作る」ということ、なのだ。

だから、内部、外部は気にしない。「ツイートから学術的エッセイまで、ジョルジュ・メリエスから『インセプション』まで」扱う。外部のニュースが自分たちのニュースの邪魔をする、という考えはもはやまったくない。さらには、自分たちや業界への批判の記事であっても、それが有用であるならば掲載する。

「WEB エディターとしての私の目的は、さまざまな見方を取り入れて、discursive (いい訳し方がわからず)な環境を作ること」
「WAC や業界への批判も載せます。そういったものがが存在することを知らないふりをするよりも、意見の衝突を受け入れたい。
「美術館から発される統一された “声” は必要だと思わない。多様な声があることこそが、より今を表現しているから」※5

ちなみに、Paul 氏の WAC の役割を「ジャーナリストというよりむしろ “キュレーター(おそらく近年流行った “キュレーション・メディア” 的なの意味で)” では」という意見もあるのだが、彼はやっぱり自分は WAC の中でも「ジャーナリスト」だと捉えていて、ジャーナリストは「客観性」を扱うものであり、さらには「透明性こそが新しい客観性」「現代の組織では、ある種の透明性は客観性よりよいことだ」というようなことを言っているのが面白かった。

ロウンチ直後の実績

さて、こうやってまさに、(特にミュージアム・テッキーな人達にとっては)大きなインパクトをもって開始した WAC の新しい WEB なのだが、その「実績」はどうだったのだろうか。今、私は 2012 年の Museum Next で発表されたロウンチ直後のデータしかないので、最近のことはわからないのだけど、参考までに紹介する。

2010 年 11 月と 2011 年 12 月(ロウンチ月)を比べると……

  • 訪問数:40%増
  • 初訪問数:54%増
  • ミネソタ州以外からの訪問数:45%増
  • 北米以外からの訪問数:33%増
  • ソーシャル・メディアからのアクセス:150%増
  • ソーシャル・メディア以外からのアクセス:50%増
  • WAC のサイトへのダイレクトなトラフィック:242%増
  • 初訪問者のサイト参加指標(エンゲージメント):21%増(滞在時間 3 分増、3 ページビュー増)
  • 2 週間以内に再訪問した数:2 倍以上

さらに

WEB にアクセスした人へのアンケート。なぜ、このWEB にアクセスしましたか?

・実際に WAC に行く準備(訪問計画)
・アカデミックな調査
・特定の情報を手に入れるため
・何気なくサイトをチェック → 30% 以上でトップの理由

※ちなみにインディアナポリス美術館で同様の質問をしたところ、45% 以上が訪問計画のためで、サイト・チェックの目的の人は10%ぐらい。

もちろん、比較しているのがロウンチ月で露出も高く、話題が大きかったため、サイトへのアクセスが大きいという要素は差っ引いて考えなければいけないだろう。しかし、今 3 年以上経ってもなお、(さまざまな手間がかかることが想定される)マガジン形式の WEB をロウンチ時のままの構成で続けている、ということは一定の手応え、評価できる成果があったのだろうと思う※6

“by letting go, we gain more”

と、補足のつもりが、いろいろ書いちゃった。やー、tumblr に書いといてからは実に 2 年越し、「ああこれすごいな」と最初思ってからは 3 年越し(笑)でブログに書けて、すごくすっきり。全部 12~13 年時に調べたっきりで書いているので、最新のことがキャッチアップできていないけれども。。

今回書きながら改めて感じたのは、こういう「自分たちのことの発信だけじゃなくて、もっとメディアとして発信していきましょうねー」というようなマーケティングの話は何年か前からあって、ワードもいろいろあって、彼らの WEB って一見その仲間のように思えるけれども、でも発言とか実際にどういうメディアを作っているのかを見てみると、「似て非なるもの」だなってこと。なんというか、もっとアグレッシブ、というのだろうか。「conflict さえ起きる場を作ろう、なぜならばそれが自分たちのミッションなのだから」という意志が伝わってくる。
何度も引用しちゃうけど、Paul 氏のこんな言葉がいい。

リスクを喜んでとることと、実験精神は WACの DNA。新しいサイト全体にこれが表現されていると信じている。」
by letting go, we gain more(手放すことによって、より得ることができる)」

下の※4にも書いたけれど、前回 game changer として紹介したアムステルダム国立美術館も、やっていることは全然違うことなんだけど、この精神、考え方はまったく一緒なんだなあと思う。

実は、WAC はこの WEB を起点に、さらに冊子、カタログなどの「WAC 全体のパブリッシング戦略」というのを展開していて、これもすごく面白いんだけど、ここはまだきちんとした記事にするには調査不足なので、また機が熟した頃(笑)に書こうかなと思います。

書きたいことは他にも山のようにあるので、少し意識的に時間をとってブログを書いていこうかな。
そうそう、このエントリもそうだけど、まずは tumblr や FB ページに少し書いていたものを(場合によってはすこし補足して)こちらのブログに再録しようと思っています。

※1:公式サイトではないけれど、2006 年にパワーハウス・ミュージアムが「Design Hub(後のD’Hub)」を作ったことがある。独特の視点からデザインのイベント、人々、ニュースを扱ったウェブサイトで、最初の 2 年は彼等のサイトの中でも成功したもののひとつだったが、エディトリアルの変化でサイトの勢いがなくなってしまったと言われている。

※2:Idea Hub: Introducing the New Walker Website.(12.01.2011)

※3:この 2 つのチームは 2009年の組織改編時に同じ “Audience Engagement and Communications” 部となった。この部署には他にエデュケーション・チームとマーケティング&PR チーム、計 4 つのチームで構成されている。

※4:そういえば、「美術館 WEB の game changer」第一弾のアムステルダム国立美術館の記事を書いている時も、「彼らは徹底しているな」と感じた。「自分たちのポリシーに徹底している(=がゆえに、切り捨てていることもある)」って共通しているんだなって思った。

※5:Beyond Interface: #Opencurating and the Walker’s Digital Initiative. (09.04.2012)

※6:シニア・ニュー・メディア・デザイナーの Nate Solas 氏はインタビューの中で、「私たちは、WEB での記事が WAC への来館者をもたらすというビジョンをもっている(それを数字として証明するのはなかなか難しいのだけど)」と語っている。

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