テート・モダンとブルームバーグのプロジェクト “Bloomberg Connects”

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※2013 年秋に見たテート・モダンでのプロジェクト覚書の転載。

[2013/10/10 の tumblr より転載]

テート・モダンがブルームバーグと共に、9.19 より新しいプロジェクト “Bloomberg Connects” を美術館内で実施している※1。これは、テート・ギャラリー群全体の館長であるニコラス・セロータ曰く「先駆的デジタル解説(pioneering digital interpretation)」とのことだが、まあ、来館者が館内のさまざまなデジタル・ツールを使って、自分の意見を述べたり、作品を作ったり、アーティストに質問できたり… という「来館者がインタラクティブに関われる」企画である。
ブルームバーグは、2002 年にテート・モダンがイギリスの美術館で初のマルチメディア・ツアー “Multimedia Tour pilot” を実施したときからのスポンサーであり、その後も音楽と連動した若者向けガイドや耳が聞こえない人のためのガイド、常設すべてのアート作品ガイドなどをアンテナ・オーディオとともに開発しているパートナーである。その最新の試みというわけ。

先日テート・モダンに行った際にざざっとみてきたので、実際にどんな企画だったのかと個人的感想をメモ。(たぶん長い)

プロジェクトの概要

プロジェクト内にいくつかの企画が含まれている。

  • Viewpoints(2-4F に設置):

    一番メインのプログラムなのかな? 皆が休憩するソファに設置されていていくつかお題が出ている。書きたい人は自由にコメントを書く。写真を撮ってプロフィール画像としてアップすることも可。

    Viewpoints

    Viewpoints

    来館者がした回答はその場で閲覧できる他、館内の階段のところを中心に設置された 75 台のモニターにランダムに表示されている。

    こんなふうに設置されている

    こんなふうに設置されている


    映像、画像はわりと頻繁に変わる

    映像、画像はわりと頻繁に変わる

  • Drawing Bar(3F):
    絵を描くスペース。私が行った時は、たくさんの子供が夢中で絵を描いていた。(もちろん子供じゃなくても描ける)
    彼らの作品も、館内のモニターに表示される。

    Drawing Bar

    Drawing Bar


    Drawing Bar

    Drawing Bar

  • Global Studios(2F):
    アーティストに質問が出来るスペース。質問されたアーティストはその中からピックアップして、動画を通じて回答を述べる。アーティストは時期によって入れ替わる。下記は本プロジェクト最初のアーティスト、メシャック・ガバ(Meschac Gaba)が回答している動画。

  • Screening Room(3F):
    アーティストのドキュメンタリーを見ることが出来る。私が行った時はゲルハルト・リヒターとニコラス・セロータの対話だった。
    Screening Room

    Screening Room

  • Multimedia Guide(2F):
    館内の常設展のマルチメディア・ガイド

————————————

最初日本でこの企画を知った時、正直それほど面白いものではないかな(わりといままでみたことある企画かな)、と思っていて、閉館ギリギリ一時間前に滑りこんで行ったぐらいだった。でも、Viewpoints の質問が結構面白くて意外と見入ってしまった。
お題にはこんなものがある。

  • ジュゼッペ・ペノーネの ‘Tree of Twelve Metres’ にキャプションをつけよう。
  • ワシリー・カンディンスキーの ‘Swinging’ にキャプションをつけよう。
  • 今日、あなたの気分にあった作品はあったか。それは何か。何故そう感じたか。
  • ヨーゼフ・ボイスは「すべての人がアーティストである」と言った。どう思うか。
  • アートはあなたの世界の見方を変えたか。
  • 書き言葉はビジュアル・アートだろうか。

     ※エレベーター・ホールに壁にローレンス・ウェイナーの「文字」の作品があり、また今実施企画展を実施中のミラ・シェンデルも同様の作品があり、共に「書き言葉」を「ビジュアル・アート」として捉えていることから

  • アーティストのプロセスに関心があるか? もしくはできたものがすべてですか?
  • 建築はあなたのアート体験に影響を与えるか。
  • アートを見ることは社会的な経験だろうか。
  • アーティストがアートでお金を儲けることはいけないことか。
Viewpoints にある質問

Viewpoints にある質問

意外とガチ(笑)。
うまくいえないんだけど「ゆるふわ」じゃない質問がいいなと思った。で、どの質問も結構長くコメントが埋まっていた。(もちろん、サクラ?的なものはあると思うし、一言コメントや空欄も多いわけだけど)

そしてこれらの回答が、館内のいろいろなところに表示されているのもなかなか面白かった。

一般の人のコメント

一般の人のコメント


一般の人のコメント

一般の人のコメント

「知的美術館」としてのトライアル

たぶん私が少し Viewpoints にぴんと来たのは、事前にこのプロジェクトのプロモーション動画を見ていたからだと思う。

プロモーション動画の最初に出てくるクリス・デルコン。彼はロッテルダムの美術館やハウス・デア・クンストを経て、2011 年にテート・モダンの館長となった。彼の 2002年に『アール』に掲載された文章「美術館の概念は無限に拡張可能ではない?※2」は、私が修論を書く時のひとつのインスピレーション源となったのだが、こんなことが書かれている。

  • 「美術館が将来の必要性を検証し始めるとすぐに、単に新しいスペースではなく、従来のものとは根本的に異なる空間が必要となることを認識し始める。つまり言い方を変えると、MoMAは、これまでしてきたように、単に拡張するだけでは、その膨張に耐えきれないということである。もし、MoMAが今後の難問に立ち向かいたいと思うなら、知的でプログラム的な目的を実現可能とするような空間と空間的関係を与えられる新しい美術館を創造する必要がある。」(グレン・ローリー MoMA 元館長の言葉を引用して)
  • エルンスト・ファン・アルフェンは、これを「知的美術館」と呼ぶことを提案している。比較、会話、交渉、価値付け、判断、そして不和の場所。マサオ・ミヨシの意見に沿って、簡潔に言うと、教育のための「自由な」場所である。しかし、ファン・アルフェンが、美術館は知識のための場所ではなく、経験を生み出す場所となっていると言うのは正しい。
  • 本当の挑戦には、新しい種類の想像力を生み出し、移行の意義やその時期の異なる面を強調することが含まれている。それは、決して美術作品それ自体にあるのではなく、それがもたらす効果や、観者を自由にする包容力として認識されるものである。(中略)より正確に言うと、彼等は、美術作品の自立性よりも、多くの自立性を見る人に認めているのである。

比較、会話、交渉、価値付け、判断、そして不和の場所。つまり「知的美術館」。

こういうことを言っているのは彼だけでなく、むしろ21 世紀を境にさまざまな人達が言っているメインの潮流なのだけれど、でも、この Bloomberg Connects の質問の傾向と、それらに寄せられた、ときに真剣でときにノイズのような、でもたしかに連なっているいろいろな「発言たち」の波の可視化は、彼が書いたただ作品を見るだけではない経験としての美術館、「比較、会話、交渉、価値付け、判断、そして不和の場所」としての美術館の試みのひとつではないか、、と感じるものがあったのだ。

質問に対しさまざまなコメントが寄せられている。

質問に対しさまざまなコメントが寄せられている。

さらに言えば、テート・モダンはその当初から「解説」を重視している美術館でもある※3

「キュレーター以外の第三者や来館者がする解説」というのは特に 21 世紀以降ちょっと流行りだったし、テート・モダンはいち早くそれにトライしているので、特に今回の「キャプション付」お題を見て、「おお、まだやってるんだ」と瞬間的に思った。と同時に、そうか、「試しにやってみる」ことももちろんだが、こうやって10年以上もやり方を変えながら続けていることが重要だし、結局はすごいのかなとも思わされた。

以上のことを思い出しながら、改めてお題を見返すと、これは「なんとなくインタラクションしたいから答えやすいものやネタになりやすいものを」で作られたお題ではなく、どの質問もテート・モダンの方向性にリンクしたものなんだなあと感じる。

TATE MODERN

TATE MODERN

上にも書いたように

  • 「書き言葉はビジュアル・アートだろうか」はまさに今展示されている作品とのリンクだし
  • 「建築はあなたのアート体験に影響を与えるか」は館内にも大々的に告知されていた今建設中の隣接する別館を想定してのこと
  • 「アートを見ることは社会的な経験だろうか」の問いには、近年テート・モダンが多くの人にとって「最初のデートの場所」「家族のお出かけ」「友人と会う場所」と認識されていることに言及されている

つまり、Bloomberg Connects とは、それがうまく機能するかどうかは別にして(失敗だって多いにありうる)、美術館と人々との「議論の場」としての美術館、そしてそのためのデジタル活用のトライアルではないかと、(修論でテート・モダンを取り上げた私は)少し贔屓目に思う。

規模も予算も大きい美術館には、だからこそそこでしかできない「リーディング・ミュージアム」としての役割があると常々感じているのだけど、テート・モダンはこのような「館内のデジタル・メディアと解説、ひいては対話の場へ」とか「解説の再定義」という分野において、そのリーダーとしてトライアルを続けている美術館だと思う。
そしてえてして一回の企画で、「誰もこんなの求めてない」とか「それほど盛り上がらない」とか言われてしまうこともあったりするのだけど、彼らは体力ある美術館だからこそ、やり続ける。そう、今回私はその「やり続けてる」姿勢に一番ぴんとくるものがあったのかもしれない。
というわけで、解説というものの重要性、その可能性を大きく羽ばたかせるものとしてのデジタル・メディア、がテーマの私としてはまだまだ追い甲斐のある美術館だと思ったのでした。

別館できたら、今度はがっつりと時間をとって行かなくてはね!

※1:Bloomberg Connecs とは、ブルームバーグ財団が世界のいくつかの文化施設に対し、そこへ来た人の経験を向上させるようなテクノロジー開発のための資金をサポートしているプロジェクト。ほとんどがアメリカの文化施設だが、アジアからは唯一シンガポールの植物園ガーデン・バイ・ザ・ベイが支援を受けている。(2015 年 1 月現在)

※2:クリス・デルコン「美術館の概念は無限に拡張可能ではない?」、アール issue 01/2002 p.16~21

※3:このような原則があるぐらいだ。

    【テート・モダンの解説の原則】

  • 解説はギャラリーのミッションの中心である
  • 芸術作品は自身で明らかにする意味をもっていない
  • 芸術作品とは多様な読解を認めるキャパシティをもっており、解説は来館者に解説テキストが主観(に基づくもの)であることを気づかせるべきである
  • 解説は新しいアイディアによる実験を喜んで受け入れる
  • 私たちは、芸術作品に対し多様な来館者の反応があるべきであることを認識している
  • 解説は美術館内外の幅広い声や意見を内包すべきである

[転載終わり]

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