- Aug 30, 2011
- #BLOG, #CROWDFUNDING
- クラウド・ファンディングとは
前回のエントリで、「次回は全然違うことを書く」と書きましたが、ちょっとチャレンジングな内容だったのでやはしちょっと後日に回します(笑)。
今日もちょっとクラウド・ファンディング・サービスのことを。
ここ数週間、ちょこちょこ調べてブログでまとめて改めて確信したのは、クラウド・ファンディング・サービスの決め手は「見返り購入者コミュニティ」の形成にあるということです。
Kickstarter(KS)で言うならば、支援経験者60万アカウントのうち、複数回支援をしたことがある8万アカウントのコミュニティをいかに創っていくかということ。 このエントリでも書きましたが、それこそが KS の資産だと思います。
何度か書いてますが、クリエイター/アーティストがいかに資金調達していくかも関心がありますが、その前段階としてどうしたらこうした層をつくっていけるか、というのが目下最大の関心事です。
これは私の今までの実務経験も集結させた研究に近いので、いろいろな面から調査や取材をしてみたいなと思っていますが、、
今日は、その要素のひとつである「ゲーム性」について、また少し触れたいと思います。
クラウド・ファンディングの「ゲーム性」については、「クラウド・ファンディングと今までの支援の決定的な違い」エントリでも”決定的な違い”のひとつのキーワードとして言及しています。
さて、このエントリで私は
私が、Kickstarter や LoudSauce をみている中で、ちょっと支援してみてもいいかも、と思ったのも、そもそもはこれらの「ゲーム性」に、「面白そう」「ちょっとやみってみたい」という感情を喚起されているというのがほんとのところなのかもしれません。
と書きました。
が、
何故、そういう感情がわいたのでしょう?
そも、人は何故ゲームにはまるのでしょうか?
人は「エピック・ウィン」を求め、ゲームにはまる
こういった話は、昔からさんざん研究があるはずで、それらの実績をまだ紐解いていませんから、たしかな話、最先端な話はできないですが、それらにつながる「ヒント」をひとつ紹介したいと思います。
ゲーミフィケーションという言葉が、マーケティング分野でバズワードになりつつあるのは前々回のエントリでも触れましたが、その分野で有名な研究者でありゲーム・デザイナーの一人にジェーン・マクゴニガル(Jane McGonigal)さんがいます。
ジェーンさんは本当にユニークで、
「みんなそんなにゲームに熱中するなら、現実をゲームにして実際の課題をクリアしてもらえばいいじゃない!!」
というのを真面目に明るく言い続けている人です。 昨日のエントリで紹介した動画で言えば、確実に「lone nuts=孤独な変わり者」のダンシング・ガイ側です(失礼 笑)。
彼女の TED での有名な講演はこちら。
20分ぐらいありますが、日本語字幕ありますので、もし初見の方がいらしたら是非ご覧になることをオススメします。彼女の突飛にも聞こえる主張が時に聴衆の笑いを誘いながらも、信念、意志と楽観主義を感じさせるいいスピーチです。彼女は実際に、ゲームで世界を救うべく、石油不足危機を乗り越える”World Without Oil“や実際の食料やエネルギー、貧困、紛争などの問題の解決をする”Evoke“などのオンライン・ゲーム※1をリリースしています。
彼女は上記の講演で、いくつか「ゲームする人」に関する面白い研究結果を披露していますが、人がゲームに夢中になる理由として取り上げているのが「エピック・ウィン(Epic Win)」というキーワードです。
「エピック・ウィン」とは何か。
それは「際立ってよい結果」だと彼女は説明します。
どのくらい「際立って」かというと、
「達成するまでは、それが可能だとさえ思っていなかったような」
「達成した時は、自分の可能性に衝撃を覚えるほど」
です。
ジェーンさん曰く、ゲームをプレイしている人は「エピック・ウィン」の間際の顔(ある差し迫った感覚、多少の怖れ、極度の集中、深い没頭……)をしている、といいます。
そして、「エピック・ウィン」は自分が今やっていること、ひいては自分の存在に意味を与える物語を提供する、だから、人は難しい課題に取り組みながらも深い満足感を得るのだと。
これが、彼女が言う「人がゲームに夢中になる理由」です。
見返り購入は「エピック・ウィン」の旅への参加権か?
おそらく、人がゲームにはまるメカニズムの説明としては、「エピック・ウィン(壮大な勝利)」は(それこそ)叙情的なキーワードだとも思いますが、私はぴんとくるところもあり面白いなあと思いました。
そもそも、人のわりと根っこに近い欲求として、「自分のアクションで何かが変わっていく」ことを欲する、それに夢中になる、というのがあるのではないでしょうか。
小さいことでもいいのです。たとえば、今でも時々、ウェブを作る際に、
「小綺麗なフラッシュのサイトより、ちゃちいアクセスカウンターがあるサイトがある方が人は訪れる」と言っていますが、はまらせるウェブの大きなポイントは「アクセスするたびに何かしら変わっていること(アクセスカウンターの数字でも)」なんだと思います。
そんなことでも人はまたアクセスしようと思います。
いつも何か変わっている=更新されているサイトの極みがミクシィや Facebook などの成功した SNS や、ツイッターでしょう。よくわからないですが、自分の行動が何かを「変えている」という感覚(錯覚の場合も多し)が、もしかしたら人が求めているものなのかもしれません。
で、もちろん、その「変わり方」は大きく、ドラマチックであればあるほど、人ははまっていく。そしてそのアクションの結果が「壮大な勝利」に近づくもの、近づくと感じられるものは、最高のカタルシスを与える。そういう意味では、ゲームは能動的なアクションとストーリーが複雑に絡み合っているものですから、「エピック・ウィン」感覚を生みやすくて当たり前なのでしょうね※2。
そして同様に、クラウド・ファンディング・サービスもそのゲーム性によって「エピック・ウィン」を与えているのでないでしょうか。
従来の寄付は、ものすごい多額でない限り、自分のアクション(寄付)による「エピック・ウィン」(=自分の力がアート界を支えたのだ!!とか新たなアーティストを生んだのだ!!的な)を感じることは難しかったでしょう。特に、(クラウド・ファンディングで集めるような)少額を寄付箱に入れるぐらいでは。
対して、クラウド・ファンディング・サービスは、前々回エントリで触れたような”ゲーム性”※3――期限、目標、独自のルール、プレイヤーの存在――によって、少額であっても支援することによって人に「エピック・ウィン」を感じさせている。うーん、あのサイトは日々無数の「エピック」が生まれている宝箱のようなものかもしれない。
ジェーンさんは、上記の TED の講演の中でとても示唆にとんだ発言をします。
「世の中のために良いから」「そうすることになっているから」といった理由で生活を変えたいと思う人はいません。しかし壮大な冒険に浸っていると「石油がなくなった」ということが、ものすごい冒険の物語に変わるのです。どう生き残れるか自分で挑戦するのです
一文目、超重要です。
そう、そんな理由でわざわざ自分の生活を変える人はほとんどいないんです。それなのに、そういった、もしくはそれに似通った理由で、堂々と協力してもらおうとしているところも多いのではないかしら。特に、特定のお金持ちや代々の支援者や投資家や、、ではない、市井の人々を巻き込まなければいけいない場合は、この感覚はもう通用しないでしょう。
では、クラウド・ファンディング・サービスを通じて支援している人たちの感覚とはどういったものなのか。「エピック・ウィン」という概念を適用してみるのであれば、もしかしたら彼らは(”「世の中のために良いから」「そうすることになっているから」といった理由”ではなく)単に、見返りの購入を「参加権」に、エピック・ウィンを求める旅を楽しんでいる人たちと言えるかもしれません。
そう考えると、本エントリの冒頭に書いた「見返り購入者コミュニティ」というものの一側面が浮かび上がってくるようです。あくまで一側面であり、これだけではないと思いますが。
……以上、今回は、今後もじっくりみていきたい「見返り購入者コミュニティ」のモチベーションとその成り立ちに関して、「とっかかり」となるような見方をひとつ提示してみました。
さて!
明日は、8月最後の日です。一応8月8日から始めた「8月平日は毎日ブログを書こう」計画最終日でござんす!!
明日は、3週間ねちねち書いてきたクラウド・ファンディング・サービスの今のところまでのまとめでもよいかなあと思っています。
更新時間は明日まではとりあえず22時で!
※1:エンタテイメントだけではなく教育的な一面をもつゲームとしては「シリアス・ゲーム」、現実を舞台にしていくゲームとしては「代替現実ゲーム(ARG)」などと呼ばれたりもしています。
※1:ちなみに、エピック・ウィンを構成する要素は下記だと説明されています。
- ミッションに向かう自分に信頼をよせるさまざまなキャラクタ(味方)
- 達成可能だが(と信じられるが)限界に近いミッション
- 自分の存在と行動に意味を与える物語
- アクションしたことに対するポジティブなフィードバック
※3:通常ゲーミフィケーションと言われるもので特徴としてあげられるものはもう少し複雑であり、ソーシャル・ファンディングの「ゲーム性」はとても原始的だと思います。