- Feb 19, 2015
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- ダラス美術館, デジタル・オーディエンス, デジタル戦略事例紹介, ニューヨーク近代美術館, ホイットニー美術館, メンバーシップ
以前、「デジタル・オーディエンス」という概念のことをこのブログで書いたことがある。(2011 年 8 月とだいぶ昔だけど)
詳しいことはこのブログをご参照ください、、なのだけど、簡単に言うと、
「インターネットの普及により多くの人が日常的にオンラインで活動するようになったので、アート/エンタメ関連機関も(従来の来館者や地域の人のみならず)そういった人たちともコミュニケーションをとっていかないとねー」
というような話。単に地元の対としての遠隔地そしてインターナショナル、というのではなく、「デジタル上で積極的にいろいろな体験をする人(情報検索、チケットをとる、といったことから、チェックインする、自分の考えや撮ったものをシェアするといったことまで)たち」を指している。
このブログを書いた時点ではわりと聞いた言葉なのだけど、最近はあんまり聞かなくなったな。流行らなくなったというよりは、もはやそういうことを考えるのは当たり前になったという方が近いかと思う。
そして、今回書きたいのは「デジタル・メンバーシップ」について。
メンバーシップ、友の会といえば、美術館を例に挙げると、年間いくらか払う(サポートする)ことで展覧会を無料で見られる年間パスポートだったり、ショップの割引だったり、イベントやクラスへの招待だったり、などの特典がもらえる仕組みだけど、
- あれ、これらの特典ってだいたい「美術館に(ちょくちょく)来館できる人」じゃないとうまみがないよね?
- 「デジタル・オーディエンス」が増えたんだから、メンバーシップもそういった人たちに向けたものが必要なんじゃない?
といって検討され始めたのが「デジタル・メンバーシップ」というアイディアだ。
たとえば 1 年半前ぐらいに、ロサンゼルス現代美術館(MOCA)が、オンライン向けメンバーシップ・キャンペーンを実施したことがあった。
具体的にはメンバーのみみることができる動画を UP するというもので、動画の内容を聞く限り個人的には「これでメンバー増えたりするかな? ちょっと弱いな」と思うものだったのだけど(笑)、この記事に、
美術館の公式 youtube は 15 万人のチャンネル登録者がいるのに、メンバーシップは減る一方で今 1 万人
ということが書いてあって、確かにこの 15 万人=つまり、デジタル・オーディエンスという可能性をどうにかしたいよなあ、と思ったのを覚えている。(ちなみに MOCA の動画チャンネル MOCAtv は美術館の Youtube チャンネルの成功例のひとつ)
で、私の知る限り、よく知られた美術館の中で唯一ガチでこれに取り組んだのはニューヨーク近代美術館(MoMA)だ。
彼らは 2011 年から 12 年にかけて “Digital Member Lounge” というメンバー向けのラウンジをオンライン上に設けていて、他美術館よりさらに力の入った「デジタル・メンバーシップ」を展開している。
実は私も最近、今春に NYC に行く&好奇心で、MoMA の「Global」会員(まさにニューヨーク以外の遠くに住んでいる人向け/年間 70 ドル)になったんです。おかげでじっくりと彼らの用意したメンバー向けコンテンツを見てみることができたので、それらを紹介しがてら、MoMA がデジタル・メンバーシップに踏み切った経緯や他美術館の流れなどについて書いていきます。
今やっている企画展も、ブラウザの中で体験することができる
早速だけど、MoMA が「デジタル・オーディエンス」に向けて準備した特典について紹介する。(それ以外の特典については割愛しますね)
さっきも書いたとおり、MoMA は “Digital Member Lounge(以下、DML)” というメンバー向けラウンジがあって、これはどんなカテゴリのメンバーでも入ることができる。まあ、「ラウンジ」と言っても、メンバー同士が交流するとかそういう場ではなくて(そういうのは Facebook とか SNS でどうぞ、という誘導)機能はマイページと一緒。メンバーシップの更新等アカウントの管理や、メンバー向けのカレンダーというのがあってそれのデジタル版をみたりできる。
で、そこにあるのが、「メンバーしか見られないコンテンツ」。
2 つあるんだけど目玉はなんといっても、“Virtual Gallery Walk-throughs”。
これは、MoMA の展示室のいくつか、および特別展を WEB 上でぐるぐる見て回ることができるというもの。
↓メンバー向けコンテンツの PR 動画
上の動画を見ていただいたらわかるとおり、Google Art Project みたいに実際に展示室を自由に動いて作品を見ることができる。
現在、体験できるのは以下の 10 の展示。
【企画展】
- The Paris of Toulouse-Lautrec: Prints and Posters(JULY 26, 2014–MARCH 22, 2015)
- Frank Lloyd Wright and the City: Density vs. Dispersal(FEBRUARY 1–JUNE 1, 2014)
- American Modern: Hopper to O’Keeffe(AUGUST 17, 2013–JANUARY 26, 2014)
- Bill Brandt: Shadow and Light(MARCH 6–AUGUST 12, 2013)
- Edvard Munch: The Scream(OCTOBER 24, 2012–APRIL 29, 2013)
【常設】
- Architecture and Design(FLOOR 3)
- Contemporary Galleries: 1980 to Now(FLOOR 2)
- Painting and Sculpture I(FLOOR 5)
- Painting and Sculpture II(FLOOR 4)
- The Abby Aldrich Rockefeller Sculpture Garden(FLOOR 1)
ロートレック展なんて、今まさに実施中の企画展だからちょっとすごいよね。本当に「物理的に来館することができない人たちに向けて」のサービスなんだと思う。
がしがしスクリーンショットをあげて紹介したいところだけど、会員制なのでさすがにそれは控えるとして、、(なんで、上の動画をキャプチャしますね)
基本的には、展示室+地図の構成になっていて(展示室、地図だけの表示、またフルスクリーンにもなる)
展示を楽しみたい場合、
- 展示室に現れる紫の矢印を押すことによって、展示室を「歩く」
- もしくは、地図上で行きたいところをクリックすれば作品の前にダイレクトに行ける
はっきりいって、「歩く」操作性は Google ストリートビューに慣れているとそれほどよいとは感じられなくて、あれ?どっちいけばいいのん、とぐるぐるすることもあるんだけど、まあこれが出来たの Google Art Project が始まったのと同じ年だしね。[※追記:間違い!Google Art Project が始まったのは前年の 2011 年でした。](あ、ちなみに MoMA は Google Art Project にも最初から参加している。なのになぜわざわざこれを作ったのか、というのはあとで書きます)慣れればかなり自由にうろうろすることができる。
操作性悪い、とか言ってるけど、最初ロートレック展に入った時は想像以上に感動した。やー、これ今 MoMA でやってる企画展だよね? うぉー、歩いてる、みたいな(笑)
さらに、ただ歩き回れるだけじゃなくて、作品の横には「+」マークがあって、それをクリックすると、大きい作品画像と基本情報が出てくる。
より詳細に知りたければ「View in the online collection」というリンクがあって、それを辿れば、MoMA の作品データベースにアクセスできるというわけ。(やっぱり、美術館のオンライン企画の基礎は詳細な作品データベースの構築と公開だなあ)
あと、展示によっては、展示室にある説明もきちんとテキストで読むことができる。(準備できていない展示もあった)
それまで来館者しか享受できなかった特典を「デジタル・オーディエンス」に
プラス!もうひとつの会員向けコンテンツが “Member Gallery Talks”。
これは約 20 分の動画コンテンツで、MoMA のエデュケーターが展示や企画展の解説をするというもの。メンバー向けに月 2 回ギャラリートークが行われていて、それに準じるものらしい(でも、その模様を撮影したものではなく、この動画専用にエデュケーターが一人で解説している)。なので、こちらは本数も多くすでに 40 本公開されている。
こと企画展に関しては “Virtual Gallery Walk-throughs” で体験できるものの動画も当然含まれているので、 “Virtual Gallery Walk-throughs” で展示室を回って、それからトークを聞く(逆にトーク聞いてから展示室みる)といった、より深い楽しみ方をすることもできる。
↓”Member Gallery Talks” 紹介ムービー
“Virtual Gallery Walk-throughs” + “Member Gallery Talks”。
以上が、MoMA の準備した「デジタル・メンバーシップ」対応の特典である。
もちろん、実際に MoMA で実際他の来館者もいる中見て、読んで、聞いて、ということに比べれば、比較できないほど違う(劣る)体験ではあるが、でもインターネットでの擬似展覧会体験としては、できうる限りがんばって再現しているんじゃないかなと思う。
なにより、「デジタル・オーディエンス」に向けての「デジタル・メンバーシップ」といった時に、それ用に新たに(えてして”出来そう”なものを)企画する、というのではなく、「無料で展示が見られる」、「メンバー限定のギャラリー・トーク」というメンバーシップ特典の王道を、それまで享受することができなかった人々――「デジタル・オーディエンス」に向けて提供する、それにはどうしたら? という発想であるところが、彼らのデジタル・メンバーシップへの取り組みへの真剣さというか「ガチ」なところを感じた。
なぜ MoMA は「デジタル・メンバーシップ」実現に乗り出したのか
そして、「ガチ」なのには理由がある。
というわけで、MoMA がこのようなデジタル・メンバーシップに取り組むことになった経緯を少し※1。
まず、MoMA がメンバーシップのテコ入れを検討し始めた時の状況はこんな感じだった。
- 来館者の 60% がアメリカ以外から。25% がニューヨーク・エリア以外から。残りの 15% がニューヨーク・シティから。
- 14 万人(世帯としてのファミリー含む)いるメンバーシップ会員のうち 45% がニューヨーク・シティの人たち。
- メンバーシップからの収益は全体の 13%。
つまり、MoMA があるニューヨーク・シティからの来館者は全体の 15% であるにもかかわらず、メンバーシップでは 45% を占めている。ゆえに、
- ニューヨーク・シティ以外から来る人達にもアピールできるようなメンバーシップだったら、もっと会員になってくれる人が増えるかな。(新規開拓)
- また美術館を訪れる時以外でも魅力ある特典をつけられたら、更新する人も増えるんじゃないかしら。(既存会員の更新モチベーション UP)
このふたつが、MoMA が「デジタル・メンバーシップ」に真剣に取り組むようになった動機だ。
彼らは、デジタル・メンバーシップへのまず第一段階として 2011 年 11 月に Digital Member Lounge(以下、DML)を立ち上げる。
その段階ではまず、各会員にマイページがあって、そこから
- メンバーシップ向け情報へのアクセス
- メンバーシップのアップグレード/更新の操作
- これまで印刷版を送っていたメンバー向け美術館カレンダーのデジタル版提供
といったことができるぐらいだった(といっても、カレンダーのデジタル版提供と同時にプリント版郵送停止もオプションとしたため、印刷代、郵送代のコスト削減の効果はかなりあったようだけど)。この時にメンバーシップの値段もアップしたようで、これから価格改定に見合うメンバーシップ制度になることを打ち出したという。
と同時に、大規模なネット・アンケートを二回に分けて実施した。
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- 一回目(DML 立ち上げ時の 2011 年11 月から翌年 2 月まで):
8 か国語 7,000 人が参加し、27% がメンバーシップ会員。
主に来館者の種類や、従来のメンバーシップへの評価、まだ会員でない人含めての DML に期待されること等が調査される - 二回目(2012 年夏):
今回はメンバーシップ会員をあえて除き、しかも 20% は MoMA に来館した経験がない人を対象とした。
一回目より幅広く、どんなオンライン・コンテンツに感心があるか、MoMA の WEB に望むこと、そしてメンバー専用のデジタル・コンテンツの提供についてどう思うか、等が調査された。
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特に二度目のアンケートで、デジタルで提供される特典への関心、物理的な特典は少なく主にデジタル・オンリー特典が提供される低価格のメンバーシップへの期待などが浮き彫りになったのだが、私が一番おもしろいなーと思ったのはここ。
人々が MoMA の WEB と関わる動機は「MoMA コミュニティ」の一部となりたいというものではなく、それよりも彼らの芸術への関心、愛情に関係がある。
つまり、たとえばメンバーや来ているもの同士で繋がりたいというよりかは、「美術館」とつながることにより関心がある。
とてもまっとうな話だけれど、別にここで交流したり出会いの場(笑)にしたいわけではなくて、「美術館」とより深く関わって、芸術をもっと楽しみたい。そのための WEB だったりメンバーシップだったりということだ。
“Wish I were there!” を叶えて、美術館とつながる感覚を
実は一度目のアンケートが行われていた頃、既に MoMA は新しいメンバーシップ特典として、上で紹介した “Virtual Gallery Walk-throughs(以下、バーチャル・ギャラリー)” と “Member Gallery Talks(以下、ギャラリー・トーク)” の準備を始めていた。
バーチャル・ギャラリーの仕組みはスペインの会社の技術を使っているらしいが、MoMA がそれを採用した理由は、まさに「歩いて行く」ような操作感が「展示室を自由に歩いているような体験を提供できるから」だったそうだ。
ちなみに、
“Wish I were there!(その場にいれたらなあ)”
というのが、当時から MoMA の Facebook ページで美術館や展示の写真をシェアするたびに多くもらっていたコメントらしい。
MoMA は、このバーチャル・ツアーを提供することで、”Wish I were there!”とコメントする人たちに対し、たとえ MoMA に行くことができなくても実際に美術館で起こっていることを疑似体験することができる、それによってより美術館と「つながっている」感覚を与えることができるのではないか、、と考える。
同時に、この仕組は美術館側に特別な準備が必要なく、既に所有していた素材でできたというのも大きかったらしい。って、どんな素材もっとったんや、という気もするけど(笑)、Google Art Prject のようにあのロボットみたいな機械でバーチャル・ツアー用にわざわざ撮影し直す、とかがなかったんだろう。
そうそう、Google Art Project(以下 GAP)との住み分けに関して。
上の方でも書いたけど、MoMA は(バーチャル・ツアーのリリースより一年半以上前の)2012 年 2 月の開始時から GAP に参加している。GAP の MoMA のページに行けば、いくつかの展示室も歩き回れるし作品も高解像度で見られる。
彼らとしては、GAP の「世界中のミュージアムを横断してひとつのプラットフォームで体験させる」という試みは当初より支持していてだから、最初に参加した 17 館の 1 館となったわけだけど、一方で MoMA として独自により挑戦していきたいとも思っていたそうだ。その理由は、
- 彼らからすると GAP の展示室画像のクオリティは理想的ではなく、実際より黄色っぽくなっちゃう
- 著作権の問題で、閲覧できるところをかなり制限したし、ぼかした作品もたくさんある
でも、自分たちでやればもっとコントロールできるし、バーチャル・ツアーできる展示室をアップする頻度もあがる。世界全体に公開でなくメンバー限定となればクリアできる問題もある。
ということで、GAP がありながら、あえて自分たちでもオリジナルのバーチャル・ツアーを作ったそうだ。
話題がそれたけど、
こうして MoMA は二度目のアンケート後の 2012 年 9 月、それまでの遠くに住んでいる人向けメンバーシップだった “National and International” カテゴリを “Global” カテゴリと変更、同時に全メンバーシップ会員に向けての新しい特典としてバーチャル・ツアーとギャラリー・トークが公開した。
ちなみに Global 会員は、通常 85 ドルする個人会員のディスカウント版のひとつ(他 Student 会員など)という位置づけで、個人会員の特典のうち、
- 会員専用のギャラリー・トーク
- MoMA が提供するコース(のディスカウント)
- メンバー・カレンダー
- 開館前に展示が見られる特典はなし
が、オンラインでしか提供されないし、
である。(カテゴリによる特典の違いはこの図がものすごくわかりやすい)
公開後から、やはりバーチャル・ツアーはたしかに滞在時間の長い人気コンテンツとなった。しかも地図でダイレクトに作品の前に行くより、実際に「歩く」人が多いそうだ。つまり「(特に物理的に来られない人に対し)展示室を歩くような体験を」という美術館の意図は功を奏したようだ。
しかし、課題もある。
最大の課題のひとつは、このバーチャル・ツアー等の特典自体をメンバーシップ会員以外はまだまだ知らない人が多い※2、ということだろう。
おおうもったいない!!!
加えて、もし仮に知っていたとしても、体験したりラインナップもみないと「価値ある特典だな」と思えないというところもあるかもなーとも感じる。
実は私も、この取組を知ったのは 2013 年のことなのだけど、当時は「70 ドルは払えないな~」と思ったものだ。
今回は実際に春 NYC に行くからというのもあったし(特典で NYC のホテルやショップの割引もあったりするので笑)、まあどっちにせよデジタル・メンバーシップのネタにもなるしという出来心?でメンバーになってみたのだけど、実際体験してみて初めて「これは、、たしかにお金払っただけある体験だわ~」と感じた。
でも、触って見なかったらそうは知らなかっただろうし、やっぱりある程度美術館に行く予定があること、もしくは本当にぜひともみたい展覧会が MoMA でやってて、というような人じゃないと(でも、ラインナップ自体がメンバーにならないとわからないから、知りようがない!!)こういったメンバー特典があること知り、なおかつ 70 ドルえいや!はできないかもねーとも。
ということで、この結果どうなったのかなーというのも気になるところなんだけど、始まって以降のデータというのは今のところ見つけられていなくて現時点ではわからない(でもちゃんと続いているので、一定の効果はあると思うのだけど)。でも、今年の秋で 3 年目ということで何かまとまった報告が出るかもしれないし、アニュアル・レポートでも探しだして改めて調べてみようかと思います。
その他の美術館メンバーシップ、そして今後の動向はいかに
最後に、他の美術館のメンバーシップの現在の動向について、今まで気になったものを思いつくままにいくつか。
まず、「デジタル・オーディエンス向けメンバーシップ」を提供しているところ。
MoMA 以外にも、アメリカ自然史博物館(Digital Membership)、メトロポリタン美術館(Met Net)、シカゴ美術館(E-Member)などあるのだが、どれも MoMA のような特別なデジタル・コンテンツやネット上で体験する仕組みがあるのではなく、「個人会員特典のうち、いくつかに制限があるディスカウント版」に過ぎない。
あ、でも、シカゴ美術館はメンバー専用のアプリを用意していて、従来のカード形式のものではなくアプリがメンバーズ・カードになる。メンバーしか読めない iPad 向け雑誌もあるんだっけかな、たしか。この、メンバー専用アプリというのは先日 Harn 美術館も導入していた模様で、印刷代&郵送費削減の一貫として導入するところはいくつか出てくるかも。
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次に、デジタル・メンバーシップではないが、以前から面白いなー、いろんなところがやればいいのに、と思っているのがホイットニー美術館が 2010 年から導入している “Curate Your Own Membership“=「自分だけのメンバーシップを作ろう」。
これは、基本の特典に加えて下記 5 つの特典が用意されていて
- SOCIAL:レセプション等への招待など
- INSIDER:限定ギャラリー・ツアー、キュレーターやアーティスト・トーク参加権利など
- LEARNING:現代アメリカ美術史などレクチャーへの参加権利、パブリック・プログラム優先権など
- FAMILY:ファミリー・プログラムの先行告知、ディスカウント、キッズ・パスポートの発行等
- PHILANTHROPY:寄付
欲しい特典を選ぶことで、自分自身でメンバーシップ特典をアレンジできることだ。
WEB でのアレンジ画面も、どの特典を入れたらトータルいくらになるのかなどが直感的でとてもわかりやすい。
こういった仕組みで、遠隔地に住んでいる人やデジタル系コンテンツ欲しいなって人が嬉しい&損がないメンバーシップにカスタマイズできると、「デジタル・メンバーシップ」になっていくと思う。
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あと美術館メンバーシップ関連のトピックでいうと、
昨年の Museum and the Web 2014 で美術館×テクノロジーの取り組みとして最優秀賞を受賞した、ダラス美術館の無料メンバーシップ・プログラム “DMA Friends” がある。
これは、美術館に訪れ、活動に参加したりアクションしたりすると、バッジやリワードに交換できるポイントがたまっていくという、リピーター増加を目的とした無料のメンバーシップ。館内の端末と来館者のモバイルを利用する。2013 年 1 月末にサービス開始してから約 2 年となる 2015 年 1 月時点で、会員数は約 9 万人※3と一定の成功をおさめている。
↓バッジやリワードについて説明した動画
現在はさらに拡張を目指していて、他美術館への横展開を目指して4館の美術館と協業を始めたり、足繁く通えるわけではないダラス在住者以外の人々のためのオンライン展開(まさにデジタル・メンバーシップ)も考えているそうな。
「無料」ということでもはや収益としてのメンバーシップの話でなくなってくる気もするが、メンバーシップの前段階として、無料で美術館リピーターを作っていくことで未来の有料メンバー、寄付者を育てる戦略といえるだろう。
徐々にロイヤリティの高い会員にしていくことを「メンバーシップのはしごにのせる」というふうに表現するらしいが、このような取り組みはまさに「いかにはしごをのぼらせるか」が肝。以前こういった取り組みの先駆けで、若い人中心にとても人気が出た安価のメンバーシップがあったのだけど、結局ほとんどの人が「はしごにのぼらなかった」ので結局 3 年半で中止したという例もある。それだけに順調に会員数を増やしている DAM Friends がどうなっていくのかというのは今後楽しみだし、うまくいけば、今後の美術館のメンバーシップのを流れ作るものかもしれないなあと思っている。
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最後に、メンバーシップではないのだが、
人々が MoMA の WEB と関わる動機は「MoMA コミュニティ」の一部となりたいというものではなく、それよりも彼らの芸術への関心、愛情に関係がある。
つまり、たとえばメンバーや来ているもの同士で繋がりたいというよりかは、「美術館」とつながることにより関心がある。
という視点から、とても「デジタル・メンバーシップ」の思想に近いのは、実はルーヴル美術館が毎年やっているクラウド・ファンディングではないかと思う。
詳しくはこのブログを読んでいただければと思いますが↓
年に一度ルーヴル美術館の作品獲得、もしくは作品修復のために世界中から少額の支援を募る。
支援した人は、お返し(=特典)として支援額に応じて自分の名前が支援者の一人として記載されたり、作品お披露目の時に招待されたり、美術館閉館日にその作品を見に行くことができたり。
それが毎年ある。
MoMA のように特典としてデジタルで完結するものはないけれども、でもこれに支援した多くの人が美術館や作品とのつながりが出来ることが嬉しくて、だから遠隔地含めオンラインでの支援が集まるというのがこのキャンペーンの人気の肝だったりする。
なのでまったくメンバーシップではないんだけど、この動機付けの部分は、結構今回書いた「デジタル・メンバーシップ」へのヒントになると思う※4。
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とまあ、いろいろ書きましたが、デジタル・メンバーシップと言っても、今のところここまで積極的にやってるのは MoMA だけということからもわかるとおり、企画、実施、運営するのは大変なのだろうし、優先順位的に手がつけられないというのもあると思う。
でも今は、コンテンツごとに有料課金できるプラットフォーム(日本だと note とか。実際アーティストのファンクラブ運営っぽいのも行われているらしい)もあるし、無料メンバーシップの流れも含めて、少しずつメンバーシップの考え方も変わりバリエーションが増えていくのかなーと思います。国内外に足繁く通えないけど好き、って美術館はあるから、そういうところにオンラインである程度のベネフィットがありつつ関われるのであれば、私もいくつかメンバーになる美術館が出てくるかも。
メンバーシップのことって初めて書いたけど、結構面白い。面白い取り組みが出てきたら、また書くかもです。
【追記】
そうそう、ちみちみ調べている時に思ったんだけど、メンバーシップの PR 動画って結構重要だなって思う。やっぱメンバー!特権!いいねー!みたいなのは見てて「入ってみてもいいかも」って思うもの(単純)。
今回の MoMA はこんなの。
「メンバー!特権!いいねー!」ど真ん中な感じはテートかな。↓
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※1:経緯やデータ等このセクションで書かれているものに関しては、基本的に Museum and the Web 2013 でプレゼンされた “Taking Membership Digital” を参照しています。
※2:Burnette A., Chiara Bernasconi and Maggie Leder. (2013). “Members Only”. Museum iD. Issue 14 p.46.
※3:DMA Friends By the Numbers より
※4:と、書きながらこのエントリをざっと読み返して、自分が当時メンバーシップにちらっと絡めて書いているのを見つけた
「機会があればその活動を自分は応援しているということを表明したい人、「メンバーシップ」とかっていうとちょっと敷居が高いけど、こういうゆるーい形で「仲間」になりたい人は、実は結構隠れている」。